2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2019年5月7日

危うい「高齢者講習」

 齊藤さんは30年以上前から教習生に実技や学科を教える一方、10年ほど前からは「高齢者講習」の教官も務める。

 「今回のような事故はいかなる理由があれ、あってはならない。しかし、現在の制度のもとでは、なるべくしてなったと言えるのかもしれません。言い換えると、制度を変えていれば、防ぐことができたのかもしれない。その意味で大変に残念であり、憤りを覚えるのです」

 「現在の制度」とは、「高齢者講習」を始めとした高齢ドライバーに関わる法律などを意味する。現在は、70歳から74歳までで、免許更新を希望する場合は、基本的には更新手続前に「高齢者講習」を受講することが必要だ。

 内容は、座学・運転適性検査(60分)と、実車(60分)。座学は、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員から運転に関する質問を受ける。運転適性検査では、動体視力、夜間視力及び視野を測定。実車では、ドライブレコーダーなどで運転状況を記録しながら運転し、その映像を指導員と確認し、助言を受ける。

 これらの講習をひととおり終えると、教習所が終了証明書を交付する。齊藤さんは「ほとんどの方に証明書を交付することになる」と話す。各受講生が証明書をもって、運転免許試験所で更新手続きをする。

 都内の場合は、警視庁が、高齢者講習を委託している都内46カ所の教習所で受講する。受講者が一定の金額を公安委員会に支払う。齊藤さんによると、毎年、警視庁が各教習所の規模などをふまえ、このくらいの人数の高齢者の講習をしてほしいとそれぞれに打診するという。

 齊藤さんは、こう話す。「当校の教習指導員の数や規模からすると、1800~1900人が妥当。警察は3000人前後の講習をしてもらえないか、と話します。しかし、当校が一気にそこまで増やすと、講習の質を下げざるを得ない。私たちは、それは避けたい。都内の高齢者講習は受講者が急激に増え、各教習所で対応しきれないほどに膨れあがっています。今後、さらに増えることが予想されます。高齢化のスピードが速く、警察や教習所がその変化に十分には対応できていないのです」

 齊藤さんは、警察は「高齢者講習」を始める前は、65歳以上から受講するようにさせたかったのでないかとみている。

 「当時、警視庁の職員と接した際、そのように話していました。しかし、実際の法律では70歳以上となった。おそらく、高齢者の数が多いために、警察としては年齢をずらさざるを得なかったのだろう、と思います。つまり、現在は65歳から70歳までの5年間が、ある意味でブランクになってしまっているのです。

 私は、65歳以上にするべきとかねがね考えています。「高齢者講習」を5年間早く受けさせることで、ある程度のチェックができるのです。ただし、警察や教習所の態勢を整え、高齢者講習の中身をより充実させることが前提になります。現時点では、いずれもが十分ではないと思いますが…」


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