定期賃貸契約のボーナス条項
全員の不定期賃貸契約書を大急ぎで作成。新契約の開始日は既存契約の満了日として終了日は2年半後のXデーとした。
立退きの見返りとしてボーナス条項を追加。(1)契約更新料免除、(2)敷金全額無条件返還、(3)退去する月の家賃免除の3点だ。
契約更改住民説明前半戦
契約変更に異論がないと予想される住人から順番にまわり、1週間以内に全員の契約変更を完了するべく訪問開始。
最初はSさん。63歳独身、無職、年金暮らし。新築の手頃な物件があれば引っ越したいと以前から聞いていた。「消防署の指導もあって、築後45年となる2年半後に解体することになりました。住人全員に契約変更をお願いしています。ボーナス条項は皆さん同じ条件です」と説明して快諾を得た。
次はE君35歳。発達障害で生活保護受給。家賃は自治体負担だ。自分の名前だけは書けるので簡単に説明して署名捺印。自治体の生活保護係には事前説明して了解済だ。
3人目はHさん68歳。糖尿病が悪化し軽度の認知症。生活保護。週2回訪問介護。ケアマネージャーのFさんに同席してもらい『立会人』として副署。
4人目はK氏70歳。肝臓と心臓疾患+認知症。年金生活。週3回訪問介護。ケアマネージャーのGさんが同席して代理人として署名しK氏が捺印。
契約更改住民説明後半戦
5番目はT氏45歳。職業不詳。日曜日の昼過ぎ居室を訪問したが疲労と寝不足で朦朧としており説明も聞かないで署名捺印。
6番目はY氏39歳。地方出身で老舗卸売に勤務。几帳面で神経質なので変更内容に異論を唱えるのではないかと心配していたが、すぐに署名捺印。
最難関Z氏72歳。“飲む・打つ・買う”のやんちゃ老人。若いころは何とか組の準構成員。長年とび職をしていた。文句を言い出したら「すでに他の方全員が同意していますので」と有無を言わせず押し切る覚悟をしていたが、あっさりと署名捺印。契約内容を理解していないような雰囲気だったが。
行き場のない“アパート難民”
海外放浪から戻るたびに住人の動静をチェックしたが、契約更改から1年半経過しても誰も退去しない。Xデーまで10カ月を切ってから心配がつのってきた。
Y氏以外は係累がいない。転居先がなければ大家が探さないと居座り続けることになる。懇意になったやり手の不動産屋に「最悪の場合はお願いします」と難しい住人のプロフィールを送った。“余命半年の86歳の独居老人”を転居させた凄腕だ。
大家が一番嫌がるのは(1)居室での死亡(高齢者)、(2)身請け人のいない病人や障害者。いわゆる“アパート難民”だ。△△ハイムでは7人中4人が該当。