2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2011年12月13日

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 行政の取り組みだけでは不十分として、独自の対応を取る事業者も増えてきている。その対応とは、主に自主検査の実施と暫定規制値より厳しい独自基準の設定である。どちらか片方だけではなく、両方を組み合わせて実施している事業者もある。

 そうした取り組みが行政の検査の網目を潜り抜けた食品を発見した例もある。6月には食品宅配事業者の「らでぃっしゅぼーや」の自主検査により、静岡産のお茶に暫定規制値を超えるセシウムが含まれることが判明した。このことによって、各地でお茶に対する対応が進んだ(但し、乾燥品であるお茶に対して暫定規制値をそのまま当てはめて対応したことについては疑問も残る)。らでぃっしゅぼーや、イオンなど自主検査の検査結果をHPでも公表している事業者もあり、検査データを補完している例と言えるだろう。

 しかし、自主検査を行っている事業者がすべて検査結果を公開している訳ではない。例えばコープネット事業連合では自主検査は実施しているが、検査精度やデータのひとり歩きを考慮し、検査結果の公表は行なっていない。簡易的な検査機器しか有していないなどの事情から検査結果を内部管理のための利用にとどめている事業所は複数存在するが、それはそれで誠実な態度と評価すべきであると考える。

容易ではない検査体制の構築

 では、なぜ十分な性能をもった検査機器を用意しないのだろうか?

 現在、最も高性能な放射性物質の検査機器はゲルマニウム半導体検出器(Ge)と呼ばれるもので、およそ1,500万円もする高価な機械だ。加えて、重量があり(約1.5t)、液体窒素で冷却する必要もある。精密な分析は可能だが、価格や設置・運用の困難さが障害となる。それに対して、簡易検査に用いられるのがNaIシンチレーションスペクトロメーターだ。こちらは価格も数百万と幾分入手しやすい。しかし、精度はGeに比べると劣り、カリウムなど天然に存在する放射性物質の影響を受けやすい。そのため、放射性セシウムを検出したと誤って判断してしまうケースもあるようだ。

 また、検査機器は事業者だけでなく、自治体や市民団体も入手を急いでいる。人気のある機種は引く手あまたであり入手困難な状況が続いていた。そこで、納入に時間がかかっても高性能の機種を選定するか、ある程度性能に妥協しても早期に入手するのかといった判断が迫られた。入手したとしても、正確に測定するためには前処理(食材を細かく切断し、指定の容器に隙間なく詰める)や一定の測定時間も必要とする。さらに、測定結果の判断には専門性知識のある人員の確保も必要となる。

 こうした様々な要因によって、事業者がそもそも測定を行うのか、検査機器を入手するならばどれを選ぶかといった判断が分かれる。

全品検査の実態

 正確な測定には上記のような装置が必要となるが、なかには全品を検査していることをアピールする事業者もある。その多くはサーベイメーターという機械で食材の表面を測定している。手軽で便利そうだが、表面が高濃度に汚染されていないと検出することは難しい。多くの食材から放射性物質がほとんど検出されてない現状ではあまり効果はないと思われる。そのため、ネット上ではこの機会によるスクリーニング検査に対して「形ばかりだ」という批判も行われた。しかし、比較的安価で手軽なために、とりあえず導入しようという事業者は未だに多いようだ。


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