「欧州議会選挙」への影響は?
欧州議会選挙の直前にビデオが公表されたことは、選挙に何らかの影響が出ること必至である。欧州議会選挙は通常あまり関心をひかないが、今回に限っては欧州全域に猛威を振るうポピュリスト政党がどこまで票を伸ばすか、全世界がかたずをのんで見つめている。
ポピュリスト側は、「EUを内側から支配する」(サルヴィーニ伊副首相)と公言しており、選挙後に行われるEU委員長の交代人事も絡んで、今回の選挙は今後のEUにとり重要な意味を持つ。
もっとも、事前予測では、ポピュリスト票は思ったほどには伸びず、議席増はあるものの、過半数を制することはないだろうというのが専らの見方だ。その選挙に今回の事件がどう影響するかだ。見方は二つに分かれる。
かなりの影響がある、との見方に拠れば、有権者の中には、既得権益層への反発から批判票としてポピュリスト政党への投票を考えている者が多く、そういう有権者は、今回の事件で、ポピュリスト政党の危うさに改めて気づき投票行動を変える可能性がある、とする。
影響は希少との見方に拠れば、オーストリア政治はドイツ語圏(ドイツ、スイス)には影響があるがそれ以外にはあまり関心を呼ばず、今回の事件の影響は限定的だろう、とする。どちらが事実かはふたを開けてみなければ分からない。
噂される「黒幕」と、実在しない「姪」
ところで、今回の事件は奇怪である。誰がビデオを仕掛けたのか、何故、欧州議会選挙直前というタイミングでこれを公表しようとしたのか、シュトラーヒエ氏ははめられたのか。
実際、シュトラーヒエ氏は、これは政治的暗殺だとする。2017年、この話が持ちかけられた時、シュトラーヒエ氏は初め、陰謀ではないかと疑ったという。それをグデヌス氏が、大丈夫と押切り別荘に連れて行った。シュトラーヒエ氏は、6時間にわたる会談で、再三、我々は法に従い行動しなければならないとしつつ、上記発言を行った。シュトラーヒエ氏は、それなりに警戒はしていたようだが、結局、取り返しのつかない誤ちを犯したといえよう。
誰がビデオを設置したか、色々取り沙汰されている。風刺作家でヤン・ベーマーマンと称する人物が、今回の公表前にビデオの存在を匂わせる発言をネット上でしていたので黒幕ではないかとされた。しかし、同人はアリバイがあるという。
もう一人取り沙汰されているのが不動産会社社長のルネ・ベンコという人物だ。同氏はクルツ首相に近く、クローネン・ツァイトゥング紙の株24.5%を所有する。動機はあるとしても、真相は不明である。
なお、「姪」という人物も謎だ。イゴール・マカロワ氏は、自分には姪はいないという。マカロワ氏には兄弟がいないのだ。
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