それだけではない。中国は日本企業に比べて意思決定が早く、例えば銅の採掘に必要な中国人労働者を大量に派遣するなど、現地のニーズを汲み取るだけの人材と資金を持っている。しかし、私がこれまで出会ってきた現地の人々からは「かつての西欧列強帝国主義の焼き直しだ」といった声もあがっているのだ。
しかも昨今、現地では反中感情が渦巻いている。報道によれば、中国が鉱物資源を狙って20億ドル以上つぎ込んできたザンビアでは、現地人の労働争議に絡む中国人経営者による射殺事件が頻発(産経新聞11年10月4日付)しているという。
また、10月18日付日本経済新聞は興味深い報道をしている。9月20日のザンビア大統領選で勝利したマイケル・サタ氏は選挙期間中に「彼らはインベスター(投資家)ではなくインフェスター(寄生者)だ」と中国を徹底して批判。当選直後には、中国大使を呼び、中国企業が絡む事業の全ての既存契約を再点検することを表明した。中国の原油輸入の16%を占めるアンゴラでも、デモが頻発。失業率は25%前後で推移し、現地の雇用は生まれていない。
アフリカ時代に向け日本がなすべきこと
このように、中国流では、現地の人々との摩擦が避けられないのである。株主資本主義を追求する欧米流も国家資本主義の中国流も、来るべき「アフリカの時代」になれば、アフリカからやがて追放されることになるであろう。
現状、日本企業の進出先といえば中国や東南アジアが中心で、中南米やアフリカはごくわずかだが、日本人と日本企業は、もっと幅広く途上国に目を向け、積極的に進出するべきである。そのためにも、「我々の孫の時代でも世界に貢献し、繁栄する日本をつくる」という気概を持つことが必要だろう。
09年、10年の2回にわたってアライアンス・フォーラム財団の途上国支援部門(AFDP)は、日本企業8社、1大学、公的機関からなるザンビア使節団を組織した。11年には、その拠点が首都ルサカに設立され、日本企業の進出を支援する。
途上国への進出を活発化するには、リスクを取ることを尊ぶ風土づくりが欠かせない。新しいことに常に挑戦する人材を育てるため、例えば企業では、若いうちはリスクをとって失敗を経験させながら人材を養成するような人事制度があっても良いのではないか。子供の教育でも同じである。挑戦して失敗しても、何もしない人間よりは、はるかに立派だと、褒めて伸ばす。こうした価値観を企業・家庭・学校教育の場で徹底し、広めていきたい。
もう一つの大きな柱は、一部の人間の金儲けの道具に成り果てた欧米流の「株主資本主義」を是正することである。会社は株主のものだけではなく、従業員、顧客、地域社会など幅広いステークホルダーのものであり、それらすべてに貢献する社会の公器であるという考えに基づいた「公益資本主義」を日本発で実現していくことだ。
その思想になじむ日本が、現在のITに代わる新しい基幹産業を創出し(詳細は小誌06年3月号「こうすればITに続く基幹産業を日本から発信できる」を参照)、「公益資本主義」に基づいて、資金が「投機」ではなく、「実業」に向かう仕組みを率先して構築していく。アライアンス・フォーラム財団の公益資本主義研究部門は、11年7月から東京大学経済学部に寄附講座を設け、京都大学理学部と共同研究を開始した。私はもちろんその先頭に立つ。
株主資本主義のなれの果ては金融資本主義だ。短期的利益を追求する思想は投機的活動へと向かい必ずバブルを作る。バブルは必ず崩壊し金融危機・経済危機が繰り返し起きる。しかも金融ゲームはゼロサムゲームなので、回を重ねるごとに少数の勝ち組と大多数の負け組を作り社会を不安定にする。
「日本人の多様性」を活かせば、必ずや、日本が世界中の人々にとって、もっとも必要とされる国になるだろう。
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