遺伝子組換えの表示は
消費者の選択権利を守るため
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遺伝子組換えについては、日本には表示義務があり、米国では義務がないことから「表示基準の変更を要請される」との懸念が出ています。ところが実は、日本の表示制度はそもそも、「食の安全」を守るために作られたものではないのです。
日本では、遺伝子組換えの食品安全性については、食品安全委員会がリスク評価をして「安全上、問題がない」と結論づけたものを、厚労省でも審査したうえで認可することになっています。
遺伝子組換え農産物を一部の加工食品の原材料として用いる場合や、生産、流通の段階で組換え品種と非組換え品種を分別していない場合には、食品に「遺伝子組換え」や「遺伝子組換え不分別」などの表示をしなければなりません。また、非組換え品種をきちんと分別したうえで栽培、流通させた原材料を用いる場合には、「遺伝子組換えでない」などの表示を任意でしても構わないことになっています。
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この制度は、食用油や醤油、異性化液糖などは対象外。遺伝子組換えによって導入されたDNAやタンパク質が破壊されたり取り除かれたりして区別できないものについては、検証方法がないため表示義務は課されていません。
結局のところ、組換え農産物は食品安全委員会や厚労省から「食品として、同類の非組換え農産物と同等以上のリスクはない」と認められているものなので、この表示制度は安全性を区別するものとは位置づけられていないのです。遺伝子組換えの表示は、消費者の選択の権利を守るための制度です。
遺伝子組換え表示
TPP交渉への警告
食品安全委員会や厚労省などが「安全」と言ったところで、信用できるか! そんな声が聞こえてきそうですが、遺伝子組換え農差物の安全性評価が詳細に行われているのは事実です。米国やEU等でも安全性が検討され、認可されたものだけが日本にも輸入されています。
欧州は反対運動が根強い地域ですが、欧州委員会は500以上の独立した研究組織が係わった25年間の研究成果を集大成して2010年、「A decade of EU-funded GMO research」という報告書を公表しました。そこでも、「組換え作物が環境や食品・飼料の安全性で従来の作物や生体よりリスクが高いという科学的証拠は、現時点でない」と結論づけています。これが、世界の科学者の意見の大勢です。
国が10月に公表した「TPP協定交渉 分野別状況」という文書の中で遺伝子組換えの表示について、「TBT(貿易の技術的障害)として問題が生じる可能性がある」と記述しています。TPPの議論で、遺伝子組換えの表示が主要テーマの一つとなる可能性はおおいにあるでしょう。しかし、これはあくまでも、「選びたいという日本の消費者の権利を、どこまで認めるか」という高度な駆け引きの対象です。