したがって、現状の制度は国内外の生産者、流通業者に極めて不評です。「科学的審議を急いで正式な残留基準を早く設けてほしい。0.01ppmという一律基準を適用しないでほしい」というのは、国内外の関係者の強い希望なのです。
また、日本では食品衛生法に基づき、基準を超過した食品と同じロットの製品は、流通や販売ができず回収措置などがとられます。一方、そこまで規制の強い国は多くはないようです。英国などは、基準を超過した食品があっても、健康影響が懸念されない場合は回収措置を講じない場合があります。
米国は2011年春の「日米経済調和対話」で改善を要求してきましたが、興味深いことに、「日本の規制は過剰ではないか」との声は、国内でも強く聞かれます。「健康影響はないのに廃棄するなんてもったいない」「科学的ではない」という理由です。財団法人「食品産業センター」が、ポジティブリスト制度について企業にアンケートを実施し、2011年4月に報告書を作成していますが、それを見ても、国内業者が制度に対して大きな問題意識を抱えていることが伺えます。
私自身、「ポジティブリスト制には問題が多く、国内の生産者も苦しめられている」と記事や講演等でたびたび指摘して来ました。国内の生産者団体などに招かれ講演したこともあります。ところが、TPPの議論が始まるといきなり、これまで不満をあらわしていた生産者団体が「厳しい制度を崩されるから、TPPは反対」となる。そんな二枚舌が通用しないことは、言うまでもありません。
輸入食品に対する監視は厳しい
これらの基準に関連して、「国内農産物に比べて輸入農産物は違反が多い」という主張もあります。たしかに、厚労省が輸入食品については水際で非常に厳しい検疫制度を運用し、違反も即座に公表されます。また、各都道府県も検査を行っています。
一方、国産食品については厚労省は検査していません。農水省と都道府県など自治体が検査をしていますが、これらの役所は「農業振興部門」も抱えていますので、切っ先が鈍りがちな傾向は否めません。
検査数がそもそも違うのですから、輸入農産物の違反数の方が多くて当たり前です。「輸入食品に対する監視の方がうんと厳しい」というのは、食品業界の常識。東京都は、国産と輸入品の両方の残留農薬検査結果を公表していますが、違反率はどちらも低く大差はありません。
また、農薬の登録に関しては、日本は国際的な水準よりも遅れている面があります。農薬は、さまざまな試験結果を添えて国に申請し食品安全委員会や農水省、環境省などの評価を受けて登録されなければ、使用や販売を認められません。それらの要件の中には、他国に比べて不十分な部分もあるのです。
こうした状態を改善しようと農水省は、一部の試験について改正手続きを行ったばかり。施行は2014年の予定です。
このような日本の安全規制の遅れている面は、一部の人たちにとっては“不都合な真実”なのでしょう。