2024年7月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月18日

 こうした事実に直面し、フランスは5つの優先事項を定めた。

第1:フランスは地域において、自らの主権的利益、国民、領土、EEZを守る。

第2:軍事・安全保障上の協力を通じて地域の安定に寄与する。インドと豪州は地域のパートナーであるが、他にもカギとなるパートナー国がある。地域の安全保障アーキテクチャ構築、ASEAN中心主義を支持する。ASEANとの協力を深化。

第3:パートナー国とともに、自由でオープンなシーレーンへのアクセスを確保する。貿易へのアクセスは世界にとって重大事であるとともに、原理原則の問題だ。ルールが野心を押しとどめなければ、小さな国の安全はあり得ようか。主権の平等はどうか。我々はこの問題に取り組み続ける。
我々は、南シナ海において1年に2回以上の航海を続ける。反対を受けるかもしれないが、既成事実を受け入れるようにとの脅しには屈しない。我々に国際法上非難される点はないからだ。考えを同じくする国々には我々に加わるよう呼び掛ける。

第4:多国間の行動を通じて戦略的安定に貢献する。例えば、北朝鮮の核問題。

第5:気候変動対策。

参考:https://www.iiss.org/events/shangri-la-dialogue/shangri-la-dialogue-2019

 英仏のインド太平洋重視は既に進行中の事象であるが、両国防相のシャングリラでの発言は、英仏がインド太平洋地域の主要なアクターになる用意と意思を改めて鮮明にしたものと言える。人権、民主主義、ルールに基づく国際秩序といった諸価値を擁護するということで、中国を直接名指ししてはいないが、中国に対して強いメッセージを送っている。モーダント英国防相の発言は全体的にやや抽象的なきらいがあるが、パルリ仏国防相の南シナ海に関するくだりなどは極めて明快である。パルリ国防相は昨年もはっきりと原理原則を述べていた。

 英仏は、言葉だけではなく、インド太平洋へのプレゼンスを高める行動を行っている。2014年から仏海軍は南シナ海を定期的に航行しており、昨年5月末には英海軍を伴って南シナ海で「航行の自由作戦」を実施したとされる。昨年8月に英海軍は、南シナ海のパラセル諸島近海で艦艇を航行させているほか、今年1月には英米海軍が南シナ海で合同演習を実施している。フランスは、今年5月10日にインド西部ゴア沖のインド洋でインド海軍と過去最大規模となる合同軍事演習を実施した。さらに、同19-22日には、日仏豪米4か国共同訓練「ラ・ペルーズ」が、インドネシアのスマトラ島西方沖のベンガル湾で実施された。また、実現性はまだ不透明であるが、英国軍はこの地域への駐留を検討しており、候補地としてシンガポールやブルネイの名前が挙がっている。

 これからの世界の経済発展の中心がインド太平洋であることは確実であること、この地域におけるオープンなシーレーンの維持が死活的に重要であることを考えれば、英仏のインド太平洋重視の動きは続くと思われる。これは、当然、日本のインド太平洋構想とも一致する心強い動きである。

  
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