2月4日、来日したメルケル独首相と安倍総理は首脳会談を行い、日独両国がルールに基づく国際秩序の維持や国際社会の安定と繁栄のために果たすべき責任が拡大していることを確認し、経済・安全保障の幅広い分野における両国の協力強化に合意した。これらの中で最も画期的と言えるのは、やはり安全保障・防衛分野での協力であろう。今回の会談での、この分野での主要点は次の通り。
・力による一方的な現状変更の試みに反対し、法の支配に基づく国際秩序の維持のために連携していくことを改めて確認
・情報保護協定の締結交渉の大筋合意も踏まえ、安全保障・防衛分野での協力を推進していくことで一致。
・自由で開かれた太平洋の実現に向けて日独で協力していくことで一致。
・インド太平洋地域における航行の自由や海洋の開放性を確保するために協力。
・北朝鮮による全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全検証可能かつ不可逆的な廃棄の実現、安保理決議の完全な履行の必要性について改めて一致。
参考:外務省HP、首相官邸HP
日本と欧州の主要国との間での安保・防衛協力は、英仏が進んでおり、これまでドイツは立ち遅れていた。しかし、ドイツでも最近、中国に対する警戒感が高まっているように見える。従来、ドイツは中国に対して宥和的な姿勢をとってきたが、昨年2月に行われた第54回ミュンヘン安全保障会議では、ガブリエル外相(当時)が、「中国の台頭は、バランス・オブ・パワーの大きな変化をもたらす。新シルクロード構想は、世界を中国の利益になるように形作るための包括的なシステムを構築する企てである。単なる経済的問題ではない。中国は、我々の西側モデルに代わる、自由、民主主義、人権に基づかないシステムを作ろうとしている」と、警戒感をあらわにした(2018年3月9日付け本欄『欧州で高まる中国への警戒?』参照)。そして、今回の首脳会談に際しての共同記者会見でメルケル首相は、「インド太平洋地域の平和と安定へのコミットを支援する。これは中国の領土的野心とも関係している。中国とは緊密に協力しなければならないが、簡単にことを進めてもらっては困る」と明言した。
日独間の安保・防衛協力の具体的な措置として挙がっている情報保護協定は、サイバーセキュリティやテロ等の機密情報の共有を主眼とするものである。特に、5G移動通信ネットワーク構築をめぐり、華為やZTEといった中国の通信技術企業にどう対応するのか、注目される。米国は、中国によるサイバー窃取、サイバー攻撃に使われる危険があるとして、5Gネットワーク構築からの中国企業の締め出しを各国に強く求めている。日本の立場は、特定の国や企業を排除しないとしつつ、事実上、華為やZTEを排除する方向である。ドイツは、中国の脅威を認識しつつ、もう少し柔軟な対応を目指しているようである。一つには、華為を締め出すと5Gネットワークの構築で米中に後れを取る恐れがあるという懸念がある。今のところ、華為への検証を強化しつつ、全面的な排除まではしない、という方針のようである。情報保護協定の締結に向けて、日独間の相違点について意見交換がなされていくものと思われる。
なお、今回の会談では、北朝鮮の非核化、ミャンマーの民主化、アフリカ支援、西バルカン地域の欧州統合などでも協力することが確認された。自由、民主主義、人権、法の支配に基づく国際秩序といった諸価値を共有する日独が、経済分野のみならず安全保障分野で広範な協力をすることは、既存の国際秩序維持のための貢献、ひいては自らの利益に繋がる。
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