2024年11月22日(金)

コカイン世界最大生産地コロンビアの現場から

2019年6月18日

コーヒー生産地でのコカ栽培

 マウロが暮らすのはコロンビア南西部カウカ県の山岳地帯で、コーヒー産地として知られている。家族単位でコーヒー栽培を営む住民が多い。

 コーヒーは住民の貴重な収入源だ。マウロの家では曽祖父の世代に始まった。「カウカ産コーヒー」は日本でも目にする一大産地だが、急峻な斜面が続くこの山の耕作地は狭く、家族単位の小規模農家は収量も限られる。年に1度の収穫で大人数の家族を養うのは難しく、家畜や他の農作物の出荷と合わせた生活をしてきた。

 近年、トウモロコシや豆類の価格が安い輸入作物の影響もあって下がり、収入の柱であるコーヒーも価格変動や病害のため不安定になった。その中でコカがより安定した収入源として生活に結びついた。コーヒーの農閑期に近隣のコカ栽培地へ収穫の出稼ぎに出る人が増え、自家消費向けの作物からコカに転作する人も現れた。

将来の夢を描けずにいる若者がいる

 マウロは都市の大学進学を夢見ていた。彼が暮らす山は反政府ゲリラが強く、政府軍との衝突が頻発し、日常的な銃声と暴力に恐怖を感じながら彼は育った。広まるコカが暴力と繋がることも知っていた。この集落では過去に、麻薬組織から地域の自立を目指した住民運動の中心人物が暗殺されている。コカに頼る現状に後ろめたさを感じる人は多い。

 深い山に閉ざされた土地で、暴力の恐怖を感じながらコカを摘む。マウロにとって都会での生活は、閉塞感を抱える故郷から飛び出し、世界の広さを実感するための一歩だった。マウロは努力の甲斐あり国内第2の都市メデジンの大学に入学する。この時彼は「心理学を勉強するんだ」と生き生きと希望を語っていた。

 大学生活はマウロの姉が学費と生活費を支援した。彼女は住民によるコーヒー生産者組合で事務職に就き、毎月の一定の収入を得ていた。地域では稀な固定収入源を持つ彼女が家族の生活を支える。自身も2人の子を育てつつ、生活費を削り弟へ仕送りを続けていた。だが無理をしていたのだろう。入学から1年後に仕送りは止まってしまう。費用を賄えずマウロは大学を休学し実家に帰る。日本にいた私はマウロからのメールで休学の話を知った。

大学を中退し実家に戻ったマウロは、思うように行かない日々に不満を溜め込んでいた

 「コカを摘むしかない。それでお金を貯めてまた大学に戻れたら」

 投げやりとも感じた彼の言葉から苛立ちが伝わってきた。

 その後、マウロは大学を中退したと彼の姉の知らせがあった。メールには「マウロが家族を避けている」と、彼が周囲に心を閉ざしていることも書かれていた。やっと開きかけた将来への扉が、自分の意思と無関係に閉ざされる。やり場のない思いに折り合いがつけられなかったのだと思う。


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