「私の村には将来の選択肢がなかった」 農村の若者を取り込む武装組織
マウロのように、経済的な理由などで進路を閉ざされた農村の若者を武装組織は取り込んだ。2017年、反政府ゲリラFARCを取材した際、戦闘員は農村出身者が多数を占め、先住民族、アフリカ系も多かった。彼らにFARC入隊の動機を聞くと、ある男性戦闘員は「私の村には将来の選択肢がなかった」と話す。
彼は幼い頃、家のジャガイモ畑を手伝うため小学校を卒業できなかった。いくら働いても生活は良くならない。何かを変えたくても勉強もできずお金もない。
彼が19歳のときFARCが村に現れた。彼らは住民に、農村の貧困はコロンビアの差別的な社会構造に原因があると説明し、不平等な社会を変えるには革命が必要だと説いた。「革命を起こし社会を変える」という物語は、くすぶる青年の心に響いた。身体の奥から湧き上がる衝動のままに彼はFARCへ入った。
また先住民族である別の青年は、幼い頃に受けた町での差別が動機となった。町では山に暮らす先住民族に対し、言語や習慣の違いを嘲笑う場面が日常的にあったという。幼い彼の心に悔しさと羞恥が焼き付いた。彼はゲリラになることで「違う自分になれる気がした」と振り返る。
農村出身者の就職先として政府軍がある。お金を稼ぎたい、未来を切り開きたいという若者が持つエネルギーの受け皿として武装組織が役割を果たした面がある。
この両組織に関する2つの統計がある。
1つは2017年にFARC構成員約1万人の出身地域をコロンビア国立大学の調査したもの。構成員の66%が農村出身者だ。人種別では先住民族が19%、アフリカ系住民が12%。コロンビア全人口では先住民族は約3%、アフリカ系の人々は10%ほどであることと比較すると、農村出身者、社会的マイノリティーの人々の比率の高さがわかる。
もう1つは政府軍兵士の出身階層だ。コロンビアの情報サイト「Los 2 Orillas」によれば、政府軍兵士の80%が貧困層出身であり、中流階層19.5%、上流階層0.5%となる。貧困層の割合が圧倒的に高い。
コロンビアの貧困は年々改善されているが、今も農村の3割以上が、ひと家族が生きるために必要とする最低限の食料、教育、医療などを賄える収入以下で生活する「金銭的貧困(Pobreza Monetaria)」状態にあるという。特に開発から取り残される傾向が強い先住民族やアフリカ系住民が暮らす地域でその数字が高い。マウロが暮らすカウカ県はこの両者が人口の約半数を占め、県の同貧困率は48.7%に上る(国家統計局2017年)。カウカは全国で3番目に多いコカ栽培地(UNODC 2017年)であることも、こうした後進的な社会環境に所以する。
貧しい農村の若者が、選択肢のない中で新しい未来を切り開こうと麻薬産業に加担する。そこで銃口を向け殺し合うのも同じく周縁化された社会に属する若者だ。麻薬・紛争という社会が抱え続ける問題を彼らが一身に引き受けている。