だが、こうした空き家はいずれ売却される。80歳以上から60歳以上へなどの「老老相続」が増えており、相続する側も家を持っていることが少なくない。また、介護施設暮らしが長くなれば、家を処分する決断もしなければならない。「これからは買い手不在の中で売り手がどんどん増える」というのが前出の不動産業者の読みなのだ。
内閣府の「国民経済計算」によれば、09年日本の家計は2400兆円余りの総資産を持つ。1450兆円が金融資産で、残りが非金融資産だが、その主体は言うまでもなく不動産だ。金融資産の6割は60歳以上の人が保有するが、おそらく不動産も似たような傾向だろう。土地だけでも家計資産の3割を占めており、この不動産が「売れない資産」になりかねないというのだから深刻だ。あるいは「相続すれば1億円」とはじいている一戸建てが、現実に相続して売りに出したら、思い通りの価格では売れないということが現実に起き始めている。
小規模住宅への優遇策から転換を
バブル崩壊後、日本の土地価格は右肩下がりが続いてきた。このまま少子高齢化が進み、団塊の世代が老人ホームに移るようになれば、売りに出る不動産が一気に増えることになりかねない。少なくとも家計資産の3割を占める不動産の価格が下落し続ければ、消費マインドも落ち込み、デフレも止まらなくなる。今後予想される不動産の売りを吸収する術を考える必要がある。
ということで、今月の復活のキーワードは「住宅面積倍増」としたい。単純化して考えれば、1人っ子夫婦が両親から2軒の住宅を相続すると仮定した場合、1軒を売りに出せば、住宅価格の下落につながる。そこで住宅面積を2倍にすれば、1軒分の売りは吸収されるではないか。
実は、日本は長年、住宅を小さくする政策を取り続けてきた。大きな家を細分化することで、持ち家比率を引き上げようとしてきたのだ。住宅戸数が世帯数を大きく超えた今、この政策を180度転換して、住宅を大きくすることを奨励すべきなのだ。
例えば土地にかかる固定資産税は、自治体が決める「課税標準」に1・4%をかけた金額が基本だが、住宅用地の場合、200平方メートル(約60坪)以下の部分は「小規模住宅用地」として、課税標準額が6分の1に軽減され、一方で200平方メートルを超える部分は「一般住宅用地」として課税標準額が3分の1に軽減される。つまり、200平方メートルを超えた部分は税金が2倍になるのだ。また、建物への固定資産税も新築なら軽減されるルールがあるが、対象は床面積280平方㍍以下の建物に限られている。つまり、小規模な住宅が優遇される仕組みなのだ。これを大きな敷地にすれば、税金が割安になるように変えてはどうだろう。
住宅の面積が大きくなれば、自ずから住宅設備機器や家電製品の需要は増える。大型の住宅建設が増えれば、大型の液晶テレビなども売れるようになる。住まいは文化を育む基盤でもある。日本的な佇まいを磨くようになれば、それが世界に通用する新しい日本の価値を生むことになるだろう。
住宅用地の面積が大きくなり、樹木を植えるスペースができれば、環境へ配慮する余裕が生まれる。コンクリートを敷き詰めて起きた夏のヒートアイランド現象も解消できるに違いない。
また、何よりも、不動産価格を下支えする結果となり、デフレの深刻化を回避できるかもしれない。失われた20年が不動産価格の下落からスタートしたデフレ・スパイラルだったことを考えれば、不動産価格の下落を止める「住宅面積倍増」は、再成長への転換点になり得る。そろそろ「ウサギ小屋」と決別する時だろう。
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。