一応の終止符が打たれたようだ。中日ドラゴンズが7日のヤクルト戦に7―1で大勝し、連敗を4でストップ。8回を1失点に抑え、ハーラートップタイの9勝目を飾ったヒーローの柳裕也投手がお立ち台で口にした次の言葉に本拠地・ナゴヤドームのスタンドは大きく沸いた。
「最近、いろいろあると思うんですけど……。今日の勝ちをきっかけにチームとファンで一つになって頑張りましょう」
ここ最近、世間で大きな波紋を呼び起こしていた中日の「お前騒動」をこの日の連敗ストップで終わらせてほしいという訴えだった。これは柳だけでなく他の選手、そして中日のチームスタッフの誰もが思っていた総意に違いない。たった1人によるKYな発言によって中日の面々は半ば野球に集中出来ないような状況が続いており、もういい加減にウンザリさせられていたからである。
そもそも、この騒動の発端は今月1日に中日の公式応援団が2014年シーズンからここまでチャンス時に流していた応援歌「サウスポー」を自粛するとSNS上で発表したことだ。ピンクレディーのヒット曲「サウスポー」の替え歌で「お前が打たなきゃ誰が打つ」の歌詞の中にある「お前」の部分を与田剛監督が問題視。指揮官自ら「『お前』という言葉を子どもたちが歌うのは、教育上良くないのではないか」という持論を展開し、球団を通じて変更を要請したことがきっかけとなった。
ネットは与田監督へのバッシングで大炎上。普段はプロ野球の話題を報じないワイドショーにまで連日取り上げられ、指揮官の指摘に有識者たちからも否定的なコメントが相次いだ。チームは現在5位でBクラスに低迷している中、現場トップの立場にあるはずの指揮官が応援歌の歌詞にクレームをつけているとあっては「真剣に戦う意識があるのか」「そんなヒマがあるのなら、もっと強くなることを考えろ」などとブッ叩かれてしまうのも仕方がない。事態はシャレにならないほどの大騒ぎへと発展してしまったのである。
中日の有力OBが「この不用意な発言によって与田監督の求心力は残念ながら地に落ちてしまった。何とか周りが必死にフォローしようと試みたものの、球団側も〝初動ミス〟を犯してしまったことでもう後の祭りだ」と憤りを見せているように、今回の騒動によって与田体制が受けたダメージは修復不可能なレベルにまで達しつつあるようだ。
ちなみに、ここで言う〝初動ミス〟とは何なのか。前出のOBは苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら、こうも続ける。
「それは球団側が与田監督の提言を絶対と信じ込み、ノー文句でそのまま応援団側に『お前』の歌詞を使う応援歌の変更を要請してしまったことだ。提言された時点で球団側が与田監督に『やり過ぎだ』と突っぱねておけば良かったが、パワーバランスを尊重し過ぎるが余りに〝なあなあの判断〟に踏み切ってしまい、今回の騒動を生み出す流れを作り上げてしまった。まあ、与田監督が昨オフに球団内で急遽、指揮官候補に持ち上げられてタクトを振るうことになった背景を考えれば、こうした騒動も起こるべくして起こったと言えるのかもしれない」
確かに昨オフ、中日の監督人事は与田政権の誕生まで紆余曲折ありながら裏側で二転三転していた。昨季限りで森繁和前監督が退任し、シニアディレクターに就任することが決定。そのバトンを引き継ぐ最有力候補として当初は前ロッテ監督の伊東勤氏に白羽の矢が立てられていたが、一部メディアによってスクープ記事が掲載されると、それを機にナゼか不思議なぐらいの勢いで尻すぼみしていった。
この昨オフの舞台裏を球団関係者の1人が、こう証言する。
「あの『中日・伊東監督誕生へ』の報道は誤報ではないですよ。だが、スクープとして世に出ることで球団内の反対派によって打ち消される格好の材料となってしまったのです。なぜ反対派がNOを突きつけていたのかと言えば、伊東さんを推していたのが実は中日の元監督であり、元GMの落合博満さんだったから。落合さんは中日で要職に就いていないとはいえ、未だに水面下で球団に影響力を持っており、特に白井文吾オーナーとは昵懇の仲として知られています。
それもあってオーナーも伊東体制に当初はゴーサインを出していたが、これまで落合さんや、その落合さんの息がかかった前監督の森さんとまるでウマが合わずに苦労した親会社の地元紙幹部たちが『落合派の次期監督だけはもう勘弁して欲しい』と強硬に主張していたとも聞いていますし…。(伊東監督誕生の)スクープが先に出てしまったことで、その主張も通りやすくなり、オーナーも飲まざるを得なくなったともっぱら。
そういうタイミングで結局、伊東さんはヘッドコーチに落ち着き、生え抜きOBの与田監督が代わってパッと出てくる形で、まさに〝あれよ、あれよ〟という感じのまま指揮官へと祭り上げられた。だから正直に言って、満を持してというよりも今の与田体制は球団内のゴタゴタに左右されながら見切り発車した〝急造内閣〟という印象が、どうも拭えないですね」