2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年7月11日

ハリスは「トランプに勝てる候補」になれるか?

 1回目のテレビ討論会で優れたパフォーマンスを見せたハリス上院議員ですが、同議員には少なくとも以下の課題があります。

 第1に、民主党における大統領候補の指名争いを勝ち抜くためには、ハリス議員は民主党支持者が重視している「トランプに勝てる候補」になる必要があります。

 米ワシントン・ポスト紙及びABCニュースによる共同世論調査(19年6月28-7月1日実施)では、「トランプ大統領を破る可能性が最も高い候補は誰か」という質問に対して、45%がバイデン氏、9%がハリス氏と回答しています。民主党支持者はトランプ大統領の支持基盤である中西部の白人労働者の票を奪う公算が高いバイデン氏を「トランプに勝てる候補」と捉えています。

 この認識を変えるには、まずハリス上院議員はトランプ大統領が最重点州に置いている中西部ミシガン州、東部ペンシルべニア州並びに西部フロリダ州の黒人及びヒスパニック系の票を固めることが不可欠です。

 加えてバイデン前副大統領と同様、ハリス上院議員にもミシガン州にウイスコンシン州を含めた中西部とペンシルベニア州のトランプ大統領を支持する白人労働者の切り崩しが求められます。

ただ西部カリフォルニア州出身のハリス上院議員には、中西部の白人労働者票の獲得はハードルが高いかもしれません。

 第2に、民主党支持者の「2番目の選択肢(second choice)」になることも極めて重要です。大抵の民主党支持者は第1希望の候補が選挙から撤退すると、新たに支持をする候補を探すからです。そこで、2番目に支持される候補になっておくことが肝要になります。

 20名以上が乱立する民主党候補ですが、残り11回のテレビ討論会を通じて、候補が絞られていきます。その過程で脱落した候補の支持者を取り込み、支持率を伸ばせるかが鍵になります。

 前で紹介した米ワシントン・ポスト紙とABCニュースによる共同世論調査では、「2番目の選択肢」の質問に対してバイデン前副大統領がハリス上院議員を9ポイントリードしています。

 この状況を打開するには、同じ左派系のバーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)及びエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党・東部マサチューセッツ州)の支持者からも支持をとりつけ、彼らにとって「2番目の選択肢」になっておけば、両上院議員が選挙から撤退した場合、彼らの票を獲得できます。そうなれば、バイデン氏のハリス氏に対する脅威は確実に高まります。

 第3に、高齢者の黒人票の確保も課題になります。米ギャラップ社の世論調査(19年6月3-16日実施)によれば、彼らの支持率はバイデン氏が36%、ハリス氏が12%で24ポイントも差があります。2期8年間にわたり黒人のバラク・オバマ前大統領を支えたバイデン氏に対する黒人の高齢者の信頼が厚いことが窺われます。

 バイデン前副大統領のこのアドバンテージを解消に近づけるには、ハリス氏もバラク・オバマ前大統領を称賛することが必須です。というのは、バイデン氏は黒人票を獲得するために、自分とオバマ前大統領を結びつけて演説の中で「バラク」と言って、前大統領に言及するからです。

 明らかにバイデン氏は、オバマ政権のもとで副大統領を務めたアドバンテージを最大限に活用して黒人の有権者に訴えています。ハリス氏にその対策が求められています。

 第4に、言うまでもなく資金力が問われます。バイデン前副大統領は第2四半期(4月-6月)に2150万ドル(約23億円)の選挙資金を集めたのに対して、ハリス上院議員は1200万ドル(約13億円)でした。ちなみにトランプ大統領は同時期に1億5000万ドル(約163億円)を集めています。

 ただ前回の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン元国務長官は選挙資金面において有利でしたが、トランプ大統領に敗れました。ハリス上院議員は、女性、黒人、ヒスパニック系並びにアジア系を中心に小口献金で資金力を高めていくでしょう。

 第5に、仮に民主党の大統領候補ないし副大統領候補に指名された場合、トランプ陣営と極右勢力による「人種カード」を用いた容赦のない攻撃に対して非白人女性のハリス上院議員が対応できるかです。


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