World Energy Watch

2019年7月17日

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原子力新技術への支援を強める米議会

 昨年末、米国上下院において新型原子炉の審査を円滑に進めることと審査に対する補助金を支出する法が共和、民主両党一致で成立した。3月27日には共和、民主両党の上院議員15名が原子力エネルギー・リーダーシップ法案(NELA)を提出した。前議会中に審議未了となった法案を再提出したものだが、翌日ゲイツ氏は、「この法案の重要性を強調しすぎることはない。両党の議員が共に新型炉を支持したことにわくわくしている。気候変動問題を解決し、この重要な産業で我が国が主導権を回復するために正に必要なリーダーシップだ」とツイートした。

 NELAの目的は次とされている「かつて原子力エネルギーにおいて世界の主導権を持っていた米国が、いまやロシアと中国にその地位を譲った結果、エネルギー安全保障と経済性に悪影響があった。再度世界で米国が主導権を持つため、競争力のある新型炉の設計、開発を行う原子力産業が必要だ」。

 そのためNELAでは、強力な官民の協力体制構築、エネルギー省による戦略策定、新型炉に対する40年間の電力買取契約の提供などが想定されている。6月18日、同法案の下院版が両党の議員により提案され、上下院にて法案が審議されることになった。

 ゲイツ氏の働きかけがどこまで功を奏したかは分からないが、議会は新型炉支援に本格的に乗り出している。世界でも、IEAが温暖化対策とエネルギー安全保障のため原子力発電が必要であり、国も政策支援を考えるべきと主張している。

原子力発電の重要性を訴えるIEA

 ゲイツ氏がツイートしたように、IEAは初めて原子力発電の必要性を訴えるレポート「クリーン・エネルギー・システムにおける原子力発電」を5月28日に発表している。原子力発電設備452基が操業しており2018年の全世界の発電量は2兆7000億kWh、シェア10%を占め、水力発電(16%)に次いで2番目に大きい低炭素電源だ。2018年には合計1120万kWの新規原発が運転を開始したが、中国とロシアに設備は集中している。

 先進国だけ取り上げれば、原子力の発電量シェアは18%であり、水力よりも大きく最大規模の低炭素電源になっているが、1970年代、80年代に建設された原発の閉鎖が続く一方、先進国では新設が進んでいない。このため、世界の電源に占める低炭素電源の比率は、再エネ設備の導入が進んだにもかかわらず20年前と同じ比率、36%のままになっているとIEAは指摘している。

 先進国の原発は老朽化が進んでおり、稼働後の平均運転年数は米国39年、EU35年、日本29年。米国では既に90基が20年間の運転延長許可を得ているが、米国産エネルギーであり価格競争力のある天然ガス、石炭との競争の問題があり、全ての原発が運転期間延長を行うか不透明な現状がある。

 先進国の原発が運転期間延長なく、仮に40年で運転を終了する場合には2025年までに4分の1の設備が閉鎖になり、2040年には先進国の原発設備2億8000万kWは9000万kWと3分の1以下に減少すると予想されている。原子力発電量が落ち込むことにより低炭素電源が失われるが、これを再エネ設備導入で補う場合先進国において必要とされる投資額は20年間で1兆6000億ドル(175兆円)、先進国が負担する電気料金は年平均800億ドル(約9兆円)増加するとIEAは試算している。

 1971年から2018年までに、原発が削減した二酸化炭素排出量は630億トン、EU、米国ではそれぞれ電力部門排出量の40%と25%に相当し、仮に原発がなかったと想定すれば、世界の電力部門の排出量は20%、日本のそれは25%増加したとされている。

 IEAは、エネルギー安全保障と温暖化対策に果たす原発の役割から、既存原発の運転期間延長、建て替え、あるいはSMRなどの新技術支援の政策を政府は考える必要があるとし、投資を促す政策、エネルギー安全保障のメリットを勘案した市場設計、他の低炭素電源との公平な競争環境整備などを具体策として挙げている。

 IEAが政策支援が必要とする新技術については米国議会も支援に舵を切っているが、既に世界ではSMRの建設も始まっている(表)。日本の原子力政策も安全の確保は当然としてもIEAの提言も織り込む必要がある段階にきているのではないだろうか。このままでは、2030年度の温暖化目標、2013年度比26%温室効果ガス削減達成は困難だろう。さらに、新技術では米中露だけでなく韓国にも後れを取ることになりかねない。

  
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