生活様式や産業構造の変化で廃れつつある伝統工芸品。固定観念にとらわれずに技術を生かせば、世界へ売り出すチャンスはある。
京都の中心市街地にあるカフェ「神乃珈琲 京都店」。2階建てのモダンな空間でひときわ目を引くのが出入り口すぐの照明だ。40本の竹骨子に色鮮やかな和紙が貼られ、柔らかい光を降り注ぐ。この現代的なデザインの逸品は京和傘の職人、西堀耕太郎が作ったものだ。
和傘は、竹を均等に割って綿糸と針で骨組みを作って和紙を貼り合わせる伝統工芸品。職人技で人々を魅了する品だが、暮らしの西洋化とビニール傘や折り畳み傘の台頭で産業は先細りとなっている。公務員から転身して創業160年を超える和傘屋「日吉屋」(京都市)を継いだ西堀は、新たな商品開発を進めた。1本の竹を割って傘のように同心円状に開閉できる骨組みを作って和紙を貼る伝統技術を、照明器具へと転用。和紙を通した光の柔らかさと骨組みが放射線状に広がる美しさが人気を集めた。海外へも販路を展開させ、ヨーロッパなど15カ国での販売に成功した。
海外に販路を築く秘訣は「グローバルローカライズ」と語る。「日本の伝統工芸品をそのまま海外に輸出するのではなく、現地の習慣や好みに応じて工芸品で培ってきた技術やデザインといった強みをアレンジしないといけない。日本人がカレーライスやラーメンを自分たちの好みにアレンジしたように」。日本独特の文化であった和傘の技術を、傘をさす機会が少ない地域の外国でも人気がでるよう工夫したのだ。
西堀は自身の経験から得た商品開発のノウハウと海外販路を生かし、他の伝統産業の輸出支援も手掛けている。例えば、漆器のお椀は、薄い木を削る技術を生かし、木製サラダボウルに〝変身〟させた。欧米では、汁椀のように器を持ち上げて飲む習慣がないからだ。商品はフランスの一流ブランドで採用された。この他、五月人形は甲冑づくりのバッグに、着物はフェラガモのバッグや靴へと姿を変え、海外へ販売網を広げることに成功した。海外で売れると、国内でも人気が高まった。「グローバル市場に溶け込ませれば、今世界で暮らしている人に受け入れられる。日本人も外国人も突き詰めれば、現代の人」。
「伝統産業と言われるのは、時代とかい離した、ニーズに応えられなかったということ」。変革し続ける必要性を訴える。その時、その場所で必要とされるものを作る。当たり前に思えることだが、なかなかできていない。「伝統」という言葉の重しがあれば、なおさらだ。「今は欲しいものを世界中からワンクリックで買える時代。AIや自動化が進めば、30年修業しないと作れないものが勝つチャンスになる」。世界中の人々に求められる商品を作って初めて「クール」と言われる日が来ると訴える。
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