休職者が激減し生産性も上がった
休職者が全社員(590人)の1割近くを占めていた会社が、4人にまで減少した企業がある。オリンパスの子会社で製品に組み込むソフト開発を手掛けるオリンパスソフトウェアテクノロジーだ。天野常彦社長が就任した06年は、暗い職場環境で、生産性は低くグループからもお荷物的な存在であった。そこで何故、大量の休職者が出ているのかを考えたという。
「原因となる根本を取り除けば働きやすい職場になるはずです。生産性も上がるはずと考えました。社員の意見を聞き、能力以上の仕事についている人には違う職場に配置転換する。コミュニケーションを活発化させるためのイベント開催など、ひとつずつ手を打っていきました」と天野社長は語る。
子会社という立場で卑屈にならないよう、賃金体系を見直し、オフィスも富士山が見える高層ビルへと移転。明るい職場環境を整え、メンタルケア相談室を立ち上げた。天野社長が取り組んだユニークな施策のひとつに自社開発の「スキルナビ」がある。「将来への不安を抱く社員は少なくない。その人たちの適性に合った仕事を見つけ異動させるのも根本的な原因を取り除くひとつです」と強調する。
適性に合った仕事がなければ、積極的に転職を勧め、会社が後押しをする。「大半はグループ企業に転職するのですが、これまで3人だけ他社に転職した人もいます。いずれも円満退社です。しかも出戻りもOKにしています」と懐の広さを示す。この取り組みをキヤノン、パナソニックなど競合先も見学に訪れ絶賛している。
1人だったメンタルケア相談室は3人態勢になり、心の不調者を出さない取り組みを実施。600人規模の会社でメンタル専任者が3人いるのも手厚い対応だ。その結果はどうだったのか。通常のSE1人が1カ月で書き込めるプログラム行数は1000行といわれるが、社長就任時と比較して倍に生産性が向上したという。「優秀な人材が入り効率的な開発ツールもできましたから、一概にメンタル対策の成果とはいえないかもしれませんが、品質は向上し、いまや全世界で展開するオリンパス製品には当社のソフトが使われるまでの信用を得ています」という。
厚労省が発表したメンタル不調者で治療を受けている人は08年に100万人を突破した。この状態が続けば日本の国力は確実に低下していく。
LBM研究所の渡部代表は「うつ病を予防する局所的な対応だけではなく、ストレスを受けてもポジティブへと転換していける訓練をすることで、結果的にはうつ予防になり、全社員の生産性向上にもつながります」と強調する。これに職場のあり方や、仕事の流れ、顧客との対応などを見直すことで、大きな成果が期待できる。
自社を分析し、弱さを克服するのは企業にとって当たり前のこと。だが、メンタル面になるとどこも対応はお座なり。専任者を置いても、定年直前の上がりの部署になっていないだろうか。専任部署を設け専任者を配置する。それも社内のエース級を投入し、権限を与えて全社横断的な業務プロセス改善まで踏み込ませるような対策を始めるべきだ。それはうつ病の発症者を減らすだけではなく、ミスが減り品質が向上する。生産性も向上する。外ではなく内を見直す取り組みが企業を強くし、やがて日本を救うことにもなる。
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