2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2019年10月30日

 平成の大合併で7町村が合併した南房総市では、さらに情報の把握に時間を要した。被災当初は、予備電源や自家発電により固定電話や携帯電話などで職員が連絡を取り合っていたが、10日頃から徐々に通信が途絶え始める。

 固定電話はNTTの光通信、携帯電話は通信各社の基地局の電源が尽きたためだった。携帯大手3社は被災直後から移動電源車や可搬型基地局を派遣するなどして対応した。船舶型基地局を出し、海からの電波復旧という試みも見られた。しかし、「大規模で広範囲な停電のため、対応しきれなかった」と各社は声をそろえる。

 災害に強いとされる防災行政無線は、中継局のブレーカーが故障しており、市内には本庁舎と六つの支所があるが、およそ半分のエリアでつながらなかった。職員は満足に連絡を取り合うことができず、「本庁舎の職員を各支所へ伝令のような形で向かわせるしかなかった」と市の担当者は話す。市内の消防団にも依頼し、団員928人が約1万7200世帯をまわり、住民の安否確認や家屋調査をしたが、状況把握できたのは被災から8日たった時だった。

 災害時の情報伝達に詳しい東洋大学社会学部の中村功教授は、「インターネットや携帯電話が使えなくなることも想定し、情報伝達手段を多重化し、被災状況に応じて柔軟に切り替えていくことが必要。数キロしかカバーできない簡易無線もラストワンマイルを埋める情報伝達には有効だ」と話す。

(出所)各種資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 総務省によると、全国では、災害時に職員同士が連絡を取る防災行政無線(移動系)を整備しない自治体が増えている。中継局の整備や維持にコストがかかるためで、携帯電話の回線を使ったIP無線へシフトする傾向にあるとされ、ここ5年で200以上の自治体がやめている。財政状況を考慮しながら、通信の多重化をどう図るかが自治体共通の課題となっている。

「なんでも上げろ」では必要な情報は集まらない

 では、千葉県による被災自治体の状況把握はいかなるものだったのか。県は台風上陸の9日未明から昼にかけて、市町村の避難勧告の有無や避難所の開設状況を中心に情報を収集。大規模な停電が起きていたことから、発電機や給水の手配を優先していた。

 千葉県では、県と自治体、消防本部、県出先機関など関係機関をオンラインで結んだ「千葉県防災情報システム」が構築されている。気象や地震といった防災に関する情報をはじめ、けが人や家屋、道路などの被害状況も共有できる。

 しかし、9日未明からの停電でネットがつながらなかった鋸南町は、一切の報告を県に上げることができなかった。また、南房総市では、9日はシステムにアクセスできたが、午前7時に避難所の開設状況を、午後0時40分に土砂災害警戒地域の解除の報告を上げるにとどまった。「毎日2回は情報システムに入れることになっていたが、報告事項がなく、県からの催促もなかった」と市職員は状況を説明する。なお、システムによらない9日の県への報告は、鋸南町が避難所開設のための発電機を近隣の県出先機関に要請し、南房総市もブルーシート4000枚を依頼していた。

 「自治体には、わかる範囲であらゆる情報を入手した段階で報告してもらうことになっている」と県危機管理課担当者は話すが、あくまでも、被害状況は現場である市町村が県へ報告するのが前提であるとのことだ。

 これに対し、防災プロセス工学を専門とする東京大学生産技術研究所の沼田宗純准教授は「『なんでも良いから情報を上げろ』と言われても、集めるべき情報がわからないと自治体は上げられない。被災している中、報告のための報告などしない。あらかじめ集めるべき情報を県と自治体との間で『共通言語』として明確に定めておくことで、情報収集や報告はスムーズになり、その後の復旧や支援も先取りして決めていける」と日ごろからの認識合わせの意義を強調する。もっとも「全体の状況を把握することが目的ではなく、災害対応をするための情報収集と伝達でなければ意味がない」と「共通言語」の中身が重要だとも指摘する。


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