2024年4月26日(金)

日本を味わう!駅弁風土記

2012年5月9日

南国の温かみを感じさせる見栄えと旨さ

 どこを見ても茶色く、どこを食べても温かみがある。そしてニンジンの細切りが弁当の中のいたるところで顔を出して陽光を放つから、見栄えはくすむどころか鮮やかである。すべてが冬の南国の温かさを感じさせ、素晴らしい旨さを出していた。竹皮編みの弁当容器は市販の商材として珍しいものではなく、当時から各地の駅弁で使われ始めていたが、この容器の色彩と質感が、駅弁の中身に本当に合っていた。

落ち着いたトーンの弁当パッケージ

 嘉例川駅は、寂れた駅であった。実は鹿児島空港もほど近い駅だが、自動車社会の到来で急行が消え、駅員が消え、駅の線路は1本を残し撤去された。

 しかし、実に一世紀もの間建て替えられてこなかった老朽駅舎は、地元の有志で維持された結果、九州・肥薩線最古の木造駅舎という“箔”が付いた。ここに自動車や観光列車で訪れる観光客が現れた。そこに実力のある弁当があり、駅弁という“箔”が付き、旅の楽しみが生まれた。これは決して、条件が良かったからではないと思う。

 あくまで主観であるが、駅弁による地域振興の手口をひとつ書く。駅弁として開発した弁当が有名になる事例は、既存の駅弁屋が手掛ける新商品でないと困難だが、地元で売り出して定着した弁当が駅弁でも名を広める事例であれば、そこそこ生まれてきている。まずは駅弁の名を借りずに地元の弁当としてファンを作り、作り続けられるだけの基礎的な販売個数を確保した後に、鉄道会社や駅長へ売り込むのはどうであろうか。

 街が興るかは未知数だが、少なくとも駅は興り、我々のような駅弁ファンが喜んでブログやSNSなどで紹介し、そのうち雑誌やテレビにも出られるかもしれない。全国には、駅弁のない駅のほうがはるかに多い。もはや急行の止まる駅ごとに駅弁がある時代ではないが、少なくとも新幹線や特急が一日30本くらい停まる駅には駅弁が定着しないものか、第2、第3の嘉例川が生まれないものかと、駅弁ファンとしてちょっと期待してみたい。
 

福岡健一さんが運営するウェブサイト「駅弁資料館」はこちら
⇒ http://kfm.sakura.ne.jp/ekiben/


「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします


新着記事

»もっと見る