自前で開発したknot
その後も何かできないものか……と考えていた乃村さんの目の前に表れたのが、ソフトバンクのペッパーだった。2015年のことだ。「住宅テックを追求したい」という思いに再度、火が付いた。
思い返せば、自身の自宅を建てるときも、図面、契約書、その後の進捗状況など、すべて紙ベースで行われていて、それだけでも膨大な量になった。これをデジタル化してクラウドに上げることによって、いつでも必要な情報にピンポイントでアクセスすることができれば便利なはず。
そこで開発したのが、knotというサービスだった。図面、契約書のデジタル化はもちろん、家が建つまでの履歴も残るようにした。
日本の中古住宅市場が活性化しない理由の一つに、住宅のスペックが分からないことがあげられることが少なくない。つまり、どの業者が、どのような建材を使用して家を建て、その後、どのような修繕が施されてきたのか。
管理に熱心ではない所有者にとっては、明らかにしたくない情報が記録されることになるが、きちんと管理している所有者にとっては、自身の物件の価値を高めることにもつながる。今、乃村さんが販売する住宅は、すべてこのknotシステムで管理されている。
knotが普及後のデータ利用イメージ
knotが普及後のデータ利用イメージとしては、以下のようなものだ。
(1)住んでいる間のトラブル(設備の故障など)があったとき、自邸にあった対応方法や業者をすぐに見つけることができる。
(2)住宅に住む人が、リフォームなどを行うときに、手元の図面を業者さんに素早く共有できるので、適切な見積もりすぐに得られたり、業者選びが行いやすくなる。
(3)住宅を売却する際に、メンテナンスを適切に行なっていることが付加価値となり、高く売却できる
(4)住宅を購入する人が、その住宅の構造やメンテナンス履歴を確認することで安心して購入できる。
欧米などと比較して、日本の住宅は資産として残らないという問題がある。その原因の一つとして、住宅投資の履歴を適切に管理できていない。いつどのような修繕をしたかが適切に管理されていないため、資産として評価できない。一方で、ハウスオーナーも資産価値として住宅投資を行えていないという実態がある。
こうしたなかで、knotでは新築ビルダーがユーザーとのコミュニケーションの過程で自然と家に関する情報がknotIDに蓄積される仕組みになっていて、事業者の負担がない。今後アフターメンテナンスや、リフォームもknotでユーザーとコミュニケーションをとるだけで自然と住宅履歴が蓄積される構造になっている。
将来は“0円住宅”も
乃村さんは、「もう少ししたら、“0円住宅”というものが出てくるかもしれません」と話す。日本全国で大量の空き家が発生している。手放したくなくても、固定資産税分が賄うことができれば、賃貸に出してもいいと考える人は少なくないはず。住宅に安く住みたいというニーズと、固定資産税分を支払ってでも個々の住宅から上がってくる情報を集めることによって新しいサービスを開発したい、と考えているプレーヤーがいるはずだという発想だ。
乃村さん自身も、間違いなくそのプレーヤーの一人である。
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