Wedge REPORT

2019年12月28日

»著者プロフィール
(lucadp/gettyimages)

 日本の不動産、戸建ての場合20年も経てば、上物の価値がなくなり、マンションでも入居した瞬間に数百万円価値が下がる、などとまことしやかに言われる。実際、日本の不動産市場は新築が圧倒的で、中古の流通は2割もない。しかし、新築か中古か、あるいは築年数だけで価値が決まるのは変な話だ。築年数が経っていても、大事に、丁寧に管理された物件はきちんと評価されるべき。そんな不動産価値の見える化を行う企業がある。

芸人の世界からの転身

乃村氏

 SOUSEIテクノロジー(東京都港区)の乃村一政さんは、吉本興行所属の元芸人だった。24歳まで研鑽を積んだものの夢かなわず、その後、不動産業界に転身した。奈良県の戸建て販売を行う不動産会社に就職し、「土地の仕入れ、住宅の設計など、一通りの経験をさせていただきました」という。

 元芸人ということもあり、「人にどう伝えるか?」ということには、関心が高かった乃村さんは、不動産業界のマーケティングのあり方に疑問を抱いたという。といのも、マスへのアプローチ一本やりだったからだ。「とにかく、地域に配達する新聞の折り込み広告を出しておけば大丈夫というものでした」。

 「でも、本当に費用対効果はあっているのだろうか?」と乃村さんは疑問に思い、「Webを使ったアプローチをしてみませんか?」と提案したものの、相手にされることはなかった。

 就職してから約3年が経ったある日、乃村さんは起業を決意した。早速、紙の広告ではなく、Web広告でアプローチしてみたところ、半分の宣伝費で、倍のお客さんからの接触があったという。

 住宅の販売は、①認知、②問い合わせ、③来店、④制約という流れが基本で、①や②は、Webのほうがアプローチしやすい、というのが、乃村さんの見立てだった。これが、ズバリ的中し、乃村さんの会社は、たった2年で奈良県のトップクラスに躍り出た。

グーグル・ネストにアプローチ

 乃村さんがもう一つ、住宅業界に疑問を持っていたのは、「売り切りビジネス」ということだった。むしろ、住宅というものは、一生モノであり、売った後こそ長期のビジネスチャンスがあるのではないか? と考えた。しかし、単なるリフォームであれば、すでに多くのプレーヤーが存在する……。

 そのように思考を巡らせていたとき、「家もスマートフォンのようにアプリケーションを入れることでアップデートできたらいいのでは?」と、思い至った。そんなとき目についたのが、「NEST(ネスト)社」だった。2012年のことだ。

 人工知能(AI)を搭載したサーモスタット(室内温度調整)によって、最適な温度管理をすることで、光熱費を削減するというサービスを展開していた。「これこそ、今後、求められる“住宅の頭脳”になるはず」と、思った乃村さんは、eメールでネスト社にコンタクトをとり、シリコンバレーに赴いて、ネストの創業者であるトニー・ファデルと面談した。

 アップルでiPodを発案した人物として知られているトニー氏は、こんなアドバイスをしてくれたという。

 「私がiPodを作っているときに、すでにiPhoneのコンセプトはあったが、誰も理解してくれなかった。だから、“住宅の頭脳”と言っても、何のことかわからない。要するに、消費者のイメージを一足飛びに越えてもダメだということだ」

 そして、ネストが日本に進出するときには、代理店を乃村さんに任せるという約束をしてもらって帰国したが、2014年にネストはグーグルに3200億円とも言われる巨額で買収され、乃村さんへの連絡も途絶えることとなった。

関連記事

新着記事

»もっと見る