World Energy Watch

2019年11月6日

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米中貿易摩擦の余波を受けたチリ

 チリ経済は輸出に依存する比率が高い。輸出額はGDP比約25%ある。輸出品で最も多いのは銅精鉱関連で約30%を占め、ついで水産物、ワインなどの食品が約22%、木材と関連製品が8%を占めている。輸出相手国としては、中国が圧倒しており2位米国のシェア約15%のほぼ2倍、約28%を占めている。日本は3位で約9%のシェアだ。

 米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速を受け、銅価格は下落し銅精鉱などの輸出も減少している。さらにペソも下落することになった(図-2)。通貨の下落は当然輸入品価格の上昇を招き、大半の化石燃料を輸入に依存しているチリでは、電気料金などのエネルギー価格が上昇することになった。電気の卸売価格は昨年4月から今年4月までの一年間で18%上昇した。

 そんな中、チリ政府は10月上旬サンチャゴ地下鉄料金の値上げを発表する。混雑時の料金(ラッシュ時と非ラッシュ時の料金に差を付けている都市は世界に多くある)800ペソ(約117円)を30ペソ(約4円)値上げした。今年1月の20ペソの値上げに続くものだが、この少額の値上げが、低成長と格差問題に不満を持つ多くの国民の憤りに火をつけることになった。

COP25開催辞退に追い込んだ騒乱

 地下鉄料金値上げ後最初に高校生が回転バー式の地下鉄の改札口を飛び越え始めた。やがて多くの乗客が抗議の不正乗車を始めた。政府が犯罪とみなし対処し始めたことから10月18日午後地下鉄駅で混乱が始まり、一日当たり300万人が利用する地下鉄が閉鎖され、混乱が広がった。

 その日の夜ソーシャルメディアにセバスティアン・ ピニェラ大統領が郊外の一流レストランで食事をしている写真が投稿され、国民の憤りに拍車がかかり、地下鉄駅、バスへの放火、スーパーマーケットの略奪が始まった。夜には、電力会社ENELの本社とチリ第2位の銀行バンク・オブ・チリの支店が放火された。

 非常事態が宣言され、治安維持は警察から軍隊に移り、19日夜から6都市において1987年以来の夜間外出禁止令がだされた。同時に大統領は地下鉄料金値上げの撤回を発表するが混乱は収まらなかった。10月22日大統領は、基礎年金と最低賃金の20%引き上げ、電気料金値上げ凍結などを発表するが、23日にストライキ、25日に100万人が参加したと言われるデモ行進が行われるなど国民の怒りが収まることはなかった。

 混乱に伴う死者が20名、負傷者が数百名、逮捕者7000名と報道されるなか、28日に大統領は閣僚8名の入れ替えを発表し、さらに30日になりAPECとCOP25開催辞退の発表に追い込まれた。世界の気候変動対策を議論するCOPの会議は世界の各地域の持ち回りだ。昨年の欧州に続き今年のCOP25は米大陸の順番だった。当初はブラジルで開催される予定だったが、昨年秋の大統領選で気候変動懐疑論の立場に立ちパリ協定からの離脱を訴えたジャイール・ボルソナーロが新大統領に決まるとブラジルはCOP25開催を辞退すると発表し、チリが代わりに開催を引き受けた経緯がある。チリは南米のなかでも気候変動対策に熱心な国だ。ただ、そのための政策が電気料金上昇を加速させた側面がある。

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