World Energy Watch

2019年11月6日

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格差社会での気候変動対策

 チリは南北4300km、東西には平均177kmの細長い国だ。東にアンデス山脈があり、水量と風量には恵まれている。日照にも恵まれており、水力、風力、太陽光の再エネ導入には適している。政府は2035年までに発電量の60%、2050年までに70%を再エネから発電された電気にする目標を立てている。不安定な電源を導入するためには安定化の投資が必要となり電気料金を上昇させるが自給率向上には役立つ。

 気候変動に取り組むパリ協定下では、チリ政府は2030年までに2007年比GDP単位当たりのエネルギー消費を30%(国際金融支援がある時には35%から40%)削減する目標を持っているが、来年の目標見直し時には絶対量の削減を目標として提出する積極姿勢を示している。また、温室効果ガスの純排出量を2050年にゼロにする政府目標も発表されている。

 2015年の実績では、発電量の41%が石炭、25%が水力、16.1%が天然ガス、バイオマスが7.9%、風力2.9%、太陽光3.3%であり、再エネの占める比率は40%弱になる。石炭の比率が高いのは、2007年天然ガスの供給国隣国アルゼンチンの輸出禁止によりエネルギー危機を経験したため、国内にも資源がある石炭の利用を進めてきたからだ。気候変動対策のためには石炭火力の削減が必要になる。

 チリ政府は、再エネ導入、石炭削減のため南米で初めとなる炭素税導入を2014年に発表し、2017年から5万kW以上の発電所を対象に二酸化炭素1トン当たり5米ドルの炭素税の課税を始めた。石炭火力の発電であれば、1kWh当たり0.5米セント程度のコスト上昇を引き起こすレベルの額だが、前大統領は将来40米ドルに引き上げることが必要と述べている。

 

 世界の炭素税の導入は、北欧諸国から始まり広まったが、チリの事情は炭素税を導入している欧州諸国とは大きく異なる。一つは格差の問題だ。もう一つは税負担比率だ。炭素税の導入を行った北欧諸国は格差が小さく、高負担高福祉の国だ。一方。チリは格差が大きく、ピノチェト政権時にシカゴ学派の学者により行われた新自由主義政策の影響だろうか所得税負担がOECD諸国で最も低い国だ(表-2)。格差が大きい国で炭素税のようにエネルギーコストを引き上げる逆進性が高い税を導入すると格差を拡大することになる。税率が低い国では税負担増の影響も大きく感じるだろう。

 欧州とは経済状況もエネルギー供給事情も異なる国で、気候変動対策を最優先し、石炭火力による安定供給と価格を軽視することは正しいのだろうか。さらに、銅輸出に依存する構造では銅価格の下落が経済に大きな影響を与える脆弱さがある中での気候変動対策も良く考える必要がある。理想は大切だが、地に足がついていない政策ならば馬鹿を見るのは国民だ。他人ごとではない。

  
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