インド経済を読む

2019年11月15日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

懸念される経済への影響

 この大気汚染で懸念されているのは健康面だけではない。あまりにひどい大気汚染の状況にインド経済への影響を懸念する声がちらほら出始めてきた。

 まずは外出の自粛だ。

 5年ほど前だと、これほどの大気汚染であったとしてもインド人は老若男女皆気にせず、外にでて公園でクリケットに興じている人もいたほどなのだが、大気汚染の危険さについての知識が浸透した今では、大気汚染がひどい日には皆外出を控えるようになった。

 その意識の変化を感じたのが「マスクの着用」だ。

 5年前だと、町でマスクをしているインド人を見かけることはほとんどなかったのだが、去年や今年くらいからキチンと口と鼻全てをすっぽり覆うことができるマスクを着用しているインド人をよく見るのだ。これは明かに大気汚染に対する正しい知識が広まっている証拠であり、インド人の健康への意識の高まりを感じることができる。

 ともあれ、そうなると当然インド人も不要不急の外出は控えることになるため、個人消費は冷え込むことになるのだ。

 また、大気汚染対策の一環として、ニューデリー及びその周辺地域において、11月4日~15日の間、車のナンバーが偶数の車のみが走れる日、奇数の車のみが走れる日を急遽定めた。これは少しでも車の排気ガスを減らすことを意図しているのだが、一方で地域の車の約半数は理論上使用できなくなる。当然人々は外出を控えることになり、こちらも個人消費への影響が懸念される。

 さらに、この大気汚染のニュースがインドを駆け巡ったあとの11月8日、大きなニュースが発表された。インド自動車業界の巨人、スズキがグジャラート州において鳴り物入りでスタートする予定だった工場の稼働開始日を当初予定の2020年4月から3か月延期すると発表したのだ。

 インドにおいて工場稼働予定日が延期になることは珍しいことではないが、今のインド自動車業界の不況も来年になれば元に戻るだろうと市場関係者が楽観的な見通しを出していた中でのこの延期は、今の自動車不況が思っていた以上に深刻なのではないかという不安を人々に植え付けた。これは大気汚染を原因とするものではないが、大気汚染による個人需要の冷え込みが懸念された直後のニュースであったため、人々に与えるインパクトも大きかったと言える。

 強気の市場関係者の中には、

  • ナンバー規制が始まれば自動車の2台目需要が生まれる
  • 空気清浄機市場は需要が膨らむ

 という人もいるが、一部の富裕層を除くほとんどのインド人の財布の紐は、2台目の車どころか日本円で3万円程度の空気清浄機の購入をもためらうくらい固いのが現状だ。

 そのため弱っている今のインド経済をさらに弱らせかねないこの大気汚染については、政府による早急な対策が求められるのである。

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