2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2012年4月18日

 一方、サウジアラビア、エジプト、クウェートなどは比較的穏健ないし親米、親西欧的で、それに産油国としての経済的利害が絡むので、外交姿勢も比較的柔軟である。その分だけ、イランの強硬路線には抵抗感もある。

 これらの国は従来イスラエルの核保有に脅威を感じ、イスラエルに「甘い」米国に不満を浴びせてきたが、もし実際にイランが核兵器を保有すれば、イスラエルより危険だと考えている節がある。イスラエルには米国のブレーキがかなり効くが、イランには全く効かないからだ。

 だからこそ、イスラエル、イランを含め、中東全域を非核兵器地帯にしようという構想をエジプトなどが以前から熱心に唱えているが、イスラエル、イランとも乗ってこない。もしこのような状況で、イスラエルに加えてイランが核兵器国になれば、サウジアラビアなども核武装に走る危険性を懸念する声が中東にもある。そうなると、まさに「悪夢の核拡散シナリオ」だ。

イラン空爆はどこまで有効なのか

 イランの核武装を最も恐れるのはもちろんイスラエルで、イランが核武装してしまってからでは遅いので、今のうちに同国の核施設、とくにナンタンズやフォルドーのウラン濃縮工場を空爆で潰しておくべしという強硬論がある。イスラエルのネタニヤフ首相がその急先鋒だ。

 これに対して、モサド(秘密諜報機関)のダガン前長官などは、仮に先制攻撃を仕掛けて破壊しても、イランの核兵器計画を2~3年遅らせる程度で効果は少ない、リスクが大きすぎるとして慎重論を唱えている。

 確かに、81年6月のイラクの「オシラク」原子炉爆撃(バビロン作戦)や、2007年9月のシリアの核施設爆撃が成功したのは、これらの国の核計画がまだごく初期段階だったことと、当時両国の防空能力が弱体だったからである。

先制攻撃によってもたらされる甚大な被害

 しかし、現在のイランは、地対空ミサイル網による防御体制が整っているとみられるし、核施設が山中や地中深くに建設されているので破壊しにくい。また距離的にもイスラエルから遥かに遠いので、空中給油機や長距離戦闘爆撃機がないと作戦遂行も難しいとされる。米国の軍事的支援があれば別だが、オバマ政権がそれに踏み切るには政治的なハードルが高い。

 下手にイランに先制攻撃を仕掛ければ、イランにはすでに中距離ミサイルが相当量あるので、イスラエルは報復攻撃を受け、無事では済まない。テルアビブでは数万人規模の死者が出るなどという予測もある。また、ペルシャ湾内の米海軍第5艦隊の艦船や米兵も危険に晒されるおそれがある。

エネルギー自立度が高まる米国

 のみならず、イランは度々警告しているように、ホルムズ海峡封鎖の挙に出るだろうが、そうなれば、石油の供給はストップする。その場合、紛争が長期化すれば、一番困るのは、石油の対中東依存度が90%、しかもそのほとんどがホルムズ海峡経由である日本だ。

 米国などは、すでに10年以上前から中東有事を想定して、ホルムズ海峡経由の石油輸入ルートを、パイプライン敷設により紅海や地中海経由のルートに切り替えており、さらに、輸入先自体をカナダ、ナイジェリア、ベネズエラ、メキシコなどに切り替えて対中東依存度を減らしているのでダメージは少ないと考えられる。

 その上、このところ米国では、メキシコ湾やアラスカなど国内での油田開発のほか、天然ガスやシェールオイル、シェールガス、シェールサンドなどの非在来型のエネルギー開発が急増しており、エネルギー自立度が高まっている。だからホルムズ海峡が閉鎖されてもそれほど困らないとみられる。


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