春の桜から冬の雪景色まで、四季折々の自然の景観が歌に詠まれてきた奈良の吉野山。ここは古くから知られた修験道の霊場でもある。この春、役行者(えんのぎょうじゃ)が創建したと伝わる金峯山寺(きんぶせんじ)の本堂、蔵王堂の秘仏本尊・金剛蔵王権現像が特別公開されている。3体からなる本尊は、いずれも身の丈6~7メートル、怒髪天をつく忿怒(ふんど)相で、彩色された姿がひときわ印象的だ。
金峯山寺の田中利典執行長によると、「今から1300年ほど前、大峯山山上ケ岳の山頂で1000日の修行を積んだ役行者のもとに現れた権現仏のお姿を桜の木に刻んだのが、ご本尊の由来とされています。3体は本地仏(ほんじぶつ)である釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩が権現、つまり仮のお姿になったもの*で、過去・現在・未来の三世にわたって人々を救済するという意味が込められています。より強い力で人々を導くために、あのような大きな像が造られたのではないでしょうか」
本尊の特別公開は、近年では昭和60(1985)年以来、役行者1300年大遠忌、世界遺産登録記念、平城遷都1300年祭など、折に触れて実施されてきたが、今回のご開帳は国宝建造物である仁王門の修理勧進を目的に今後10年間にわたって定期的に実施するもので、その1回目に当たる。
「ご本尊は本堂の奥深くに緞帳(どんちょう)を掛けて安置されていたため、当時の彩色がそのまま残っています。肌の色の青黒いお姿は、お互いを認め、お互いを許しあう、“恕(じょ)”という慈悲の心を象徴しています。ご参拝に訪れる方には、慈悲の深さに触れていただくとともに、力強いお姿から生きる力を感じて欲しいですね」
特別公開の期間中、蔵王堂奥殿において、吉野山と熊野三山を結ぶ大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)での修験者の様子を伝える六田(むだ)知弘写真展「OKUGAKE」も同時開催されている。なお、次回のご開帳は今秋に実施予定だ。
*本地垂迹(ほんじすいじゃく)の思想より。真実の身(本地)は仏でありながら救済のために仮の身(垂迹)である神となって現れるという。
仁王門大修理勧進 秘仏本尊特別ご開帳
<開催日>2012年3月31日~6月7日
<会場>奈良県吉野町・金峯山寺(近鉄吉野線吉野駅からロープウェイ)
<問> 0746(32)8371
http://www.kinpusen.or.jp/index.htm
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。