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2020年2月5日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 不祥事が頻発すると、厚労省では不祥事で「炎上」している部署に応援要員が派遣されるという。トラブルを早く収束させたいためだが、そうなると応援させられた部署の仕事は停滞することになり、応援に行った担当者の仕事が山積する。

 いまだに新型コロナウィルスの感染拡大が続く同省は大変な状況のようで、元厚労省官僚は「今回もほかの部署から相当数の応援をしているはずだ」と話す。

 いくら仕事が日常的に忙しくても、人員増はほとんど期待できないという。その一方で厚労省の場合は、介護、年金、医療のどの分野をとっても新しい政策や、実情に合わせた政策の手直しが目白押しだ。中央官庁の多くは、季節的な繁忙があり、ある多忙な時期さえ乗り切れば休めるという仕事のサイクルがあったが、同省の場合は「年中多忙で休めない」と打ち明ける。

人材流出、心が疲弊して辞めていく同僚が多い

 仕事がきつくても将来展望があれば乗り切れるが、いまの「霞が関」にはそれさえないように見える。「官僚の働き方改革を求める国民の会」が現役官僚など約1000人に行ったアンケートの中から、若手のキャリア官僚から聞こえてきた悲痛な叫びをいくつか紹介する。

 「若手の『霞が関離れ』は本当に深刻です。辞めて外資に行ける能力のある人から離職し、残った人で質を落としながら政策立案している。給料を上げることができなくても、せめて変えられることだけでも変えてほしい」(財務省20代後半男性)

 「費用対効果を踏まえたルール化で、改善できることは多数あると思う。私は不毛な国会待機に嫌気がさして退職した。退職ペースは年々上がっているように思える」(総務省30代前半の女性退職者)

 「無駄な残業が多いように感じる。今の国会答弁作成の制度や残業時間が変わらなければ転職しようと思っている」(法務省20歳代後半女性)

 「心が疲弊して辞めていく同僚が多い。労働基準法を適用すれば到底許されない働き方が常態化している。それでもこの仕事を選び、働いているのは、国民が幸せに生きていける社会形成の一助になりたいという思いがあるからこそだ」(厚労省20代後半女性)。

 さらには、無駄の多い長時間労働が、子育てや子作りの阻害要因にもなっているという声が上がっている。

 「妻から言われました。『子供は諦めます。でも貴方が倒れたら私が頑張るから、無理をしないでください』と」(文部科学省20代後半男性)

 「1年ごとの人事異動と国会待機などによる残業が日常的に100時間を超えるため、体調がコントロールできなくなり、生理が来なくなって妊娠できるかどうかわからない。私の年代(30歳代前後)の離職率も高い。現在の激務状態では子供も産めないし、産んでも育てられるかどうかわからない」(国土交通省20歳代後半女性)

大臣に「血判状」

 この慢性的に厳しい状況に我慢がならなくなったのが、昨年8月に当時の根本匠厚労相に「血判状」とも言える緊急提言をぶつけた同省の若手グループだった。役所の職員が大臣に対して職場改善要求を突きつけるのは異例の事態である。同グループは職場の実態を「厚労省の仕事は『人生の墓場』だ」と表現したほどで、現場の苦しい状況を大臣に直訴した。

 これを受けて同省総務課は「グループが出した工程表に沿って粛々と職場改善を進めている。職場の冷暖房の適切な調整、国会対応でのペーパーレス化などを進めており、同グループとは対話をしている」と努力姿勢をみせている。

 だが、同グループが求めているような抜本的な職場改善をするのには時間もかかるようで、そう簡単ではない。特に国会対応に関しては、役所と国会の双方の合意が必要となる。このデジタルの時代に、いまだに大量の資料を印刷して配布するという時代錯誤的な事務作業を続けているのは先進国では日本だけ。野党議員もこの実態に目を向けて、IT化できるところは改善すべきではないか。 

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