2024年4月25日(木)

五輪を彩るテクノロジー

2020年2月18日

強度にたわみ、軽さ全てに配慮

 それまでにカーボンマジックが手がけてきた航空機体や風力発電機翼といったものの多くは変形しないもので、剛性と強度を高めることだけが求められていた。しかし、義足の場合、「いかに大きくたわませるか」がポイントで、たわみ過ぎると強度が気になり、分厚くすれば重くなる。強度と弾性率(たわみ方)を兼ね、しかも軽量でと、これまでの事例にない工夫が必要となる。さらに足が地面に踏み込む角度はスタートからゴールまで一歩一歩違い、必然的にたわみ方も微妙に変わってくるのだ。

 実際に佐藤選手が試作品を装着して走り、高速度カメラで一歩一歩を解析した。理論上では理に適(かな)っていても、選手の感じ方がそれを裏付けるものとは限らない。すべては手作業だ。一歩をさらに細かく区切って荷重のかかり具合やたわみを推進力にどう繋げるかの最適解を導き出していった。

 こうした〝三位一体〟による試行錯誤が6回繰り返され、ようやく初期製品に辿(たど)り着く。佐藤選手はこれを使って外国製で出した100メートルの自己記録を0秒03縮めたのである。東京パラリンピックに向けて更なる開発が進み新モデル「Xiborg ν」(サイボーグ・ニュー)も生まれた。

その義足があと何秒縮めて新国立競技場のゴールテープを切るのを後押しするか、期待がかかるが、「結果として、東京パラリンピックでメダルを獲るとか、健常者よりも速く走れるというのが本心じゃない」と遠藤氏の視線はさらに先を見ていた。

 「義足のランナーが速くなってきたことを『面白い』と思われているじゃないですか。それは義足が今まで障害者と思われ『結構速いね』という驚きになっている。結果的には驚かず、一つの競技として成り立つ。それがゴールかなと思う。それを作り上げていく過程が研究者としての醍醐味だ」

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