このように、不動産投資を含めた全国の固定資産投資は今年に入ってから大幅に減少した結果、投資資金に対する市場の需要が減り、銀行融資への「借り渋り」が生じた。
その一方で、輸出が不振に陥っている中で関連企業の生産意欲が減退して稼働資金に対する需要も減ったから、企業の「借り渋り」にいっそうの拍車をかけた。その結果、今ではむしろ、政府が貸し出しの拡大を奨励するような金融緩和政策を実施しても、企業は別にそれ以上に金を借りたくない、という前代未聞の状況が生じてきている。
つまり、景気回復のための政府の金融緩和はすでに無意味なものとなってしまった、ということである。
経済運営の「必勝法」が崩れ去った中国
このような状況は、中国の高度成長が重大なターニングポイントを迎えたことを意味している。これまで中国政府は、まさに「紙幣の乱発」と言って良いほどの信用供給の継続的拡大を行い、そこから放出される大量の資金を固定資産投資に回すことによって経済の高度成長を維持してきた。景気がちょっとでも悪くなると、直ちに財政出動を行ったり新規融資の拡大作戦を実施したりするというのは政府の経済運営の常套手段ともなっていた。とにかく資金を拠出して鉄道を造ったり不動産を作ったりさえすれば表面上の好景気と高い成長率が維持できるのである。
しかし今、政府は金融緩和で信用供給を拡大しようとしても、肝心の企業にはそれを借り入れて投資の拡大をしようとする意欲がないのである。
その意味するところはすなわち、「紙幣の増発をもって投資を増やして景気を維持する」という中国政府の経済運営の「必勝策」が完全に失効してしまったことであり、このような方法で支えられてきた中国の高度成長そのものは限界となったのである。
その結果、中国の高度成長は、確実に終焉を迎えつつある。一つの時代はそれで終わったのである。
そうした意味で、この度の中国政府の追加金融緩和を受けて「それで中国経済は再び上昇局面に戻る」という日本の多くの「識者」たちの認識は、まったく大局を見失ったナンセンスな見方だと言えよう。中国経済の全体像がわからない上での甘い幻想にすぎないのである。
「電力不足 だから中国へ」も危ない
ちなみに、多くの日本企業は日本国内での電力不足などに圧迫されて中国への進出を加速化するような動きもあるようである。だが、中国経済はこれから確実に落ちていく中で、日本企業は今まで以上に中国進出を慎重に考えた方が良い、というのは、筆者からのささやかなアドバイスである。
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