長期政権が相次いで崩壊したアラブの騒乱から約1年半が経過しようとしている。
5月23、24日に大統領選を控えるが、混戦模様で、先も見通せない。
当時「アラブの春」と形容されたが、実態は春と呼べないほど混迷が深まっている。
展開次第では、中東からアジアへシフトしつつあるアメリカの足を止めることにもなる。
日本の国益にも影響が出る可能性があり、今後もエジプトの情勢には注意が必要だ。
チュニジア、エジプトの長期政権が相次いで崩壊したアラブの騒乱から約1年半が経過しようとしている。
日本や欧米のメディアは、中東地域に波及した独裁政権の崩壊を「アラブの春」と形容した。しかし、この表現は、実は当事国やアラブ諸国ではほとんど聞かれない。
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エジプトにおける民主化の歩みは、春と評することができないほど混迷している。現在、新大統領の選出と新憲法の草案作りを巡り、各勢力が熾烈な争いをしている状態にある。大統領選挙の投票は5月23、24日の2日間に亘って実施されるが、どの候補者も過半数を獲得できなかった場合は、6月16、17日に上位2名で決選投票が行われる。投票の最終結果は21日に発表される予定である。
ムバーラク政権までのエジプトは、アメリカの中東政策の要の一つであった。アメリカは、その重要な足場を失ったのである。今後の展開次第では、中東からアジアへシフトしつつあるアメリカが、さらに中東に足止めされることにもなりかねない。
大国意識が復活したエジプト
2011年2月のムバーラク大統領辞任を求める抗議デモは、デモが開始された日付にちなんで「1月25日革命」と呼ばれている。この革命は、1990年代から本格化した市場経済化の失敗が招いた社会の不公正が要因であった。52年以来約60年間続いた、実質的な一党体制が打倒されたのは、まさに革命であった。
革命によって変わったのは政治体制だけではない。国民の意識も変わった。アラブの大国としての自信が復活したのである。しかし、この大国意識は、外国に対する警戒心と表裏一体であった。今、この警戒心は、ムバーラク政権と対イスラーム主義で協力関係にあったイスラエルやアメリカ政府、そしてアラブ域内でエジプトと覇権を競うサウジアラビアに対して向けられている。
現在、エジプトの社会は、新しい体制の在り方をめぐって、2つの勢力に分かれつつある。