2024年4月19日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年5月24日

 「温家宝首相は中国側の新疆、釣魚島問題についての原則的な立場をあらためて述べ、日本側に対し、中日間の政治的な4文書の原則精神に則り、中国側の核心的利益と重大な関心をきちんと尊重し、慎重かつ妥当に関係問題を処理し、両国関係発展の正しい方向を堅持するよう促した」

 この核心的利益がウイグル、尖閣の両方の問題にかかるのか、ウイグルは核心的利益、尖閣は重大な関心なのかは、はっきりしない。

 日本外務省の担当者は会談後のブリーフィングで「尖閣について核心的利益と結び付ける発言はなかった。一般的な形としては、核心的利益と重大な関心事項を尊重するということが大事だという発言はあった」と解説した。

 中国の外交筋は筆者の質問に対し、尖閣も中国の核心的利益なのかは明言を避け、あいまい戦略によって、日本に圧力をかける姿勢を示した。

米国には譲歩の姿勢

 中国は従来、「祖国の完全統一」の対象である台湾や、建国以来、実効支配を続けながらも独立運動が続くチベットや新疆ウイグルなどの自治区について「核心的利益」という言葉を用いて、主権・領土を守る決意をアピールしてきた。しかし、領有権を主張しながらも他国に実効支配されている島を含む南シナ海の南沙諸島や、日本が実効支配する尖閣諸島については、この言葉を用いたことはなかった。

 ところが、中国側は2010年3月に訪中した米国のスタインバーグ国務副長官とベーダー国家安全保障会議アジア上級部長(いずれも当時)に対して、南シナ海も「核心的利益」に属するとの新方針を伝達した。米政府はクリントン国務長官が南シナ海の自由航行確保は「米国の国益」と断言するなど強く反発。中国側は同年秋までに、南シナ海を「核心的利益」とは言っていないと当時の発言を否定し、新方針を取り下げた。

中国脅威論と「伝家の宝刀」

 一方、中国政府は11年9月、中国脅威論を抑えるために発表した「平和発展白書」の中で、中国の核心的利益を(1)国家の主権(2)国家の安全(3)領土の保全(4)国家の統一(5)中国の憲法が確立した国家の政治制度と社会全体の安定(6)経済・社会の持続的な発展の基本保障――と定義した。


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