チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年4月11日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

放火犯と消防士の両方の役割

 以上、3月21日以降の動きを時系列的に概観してみたが、「中国共産党政権は新型コロナウイルスのパンデミックに関して、放火犯と消防士の両方の役割を果たしている」(アメリカ外交政策評議会『ナショナル・レビュー』3月27日号)とまで酷評できそうにないが、どうやら習近平政権によるマッチポンプ式の「新型コロナウイルス外交」が浮かび上がってきたようだ。

 これまでのカンボジア、ミャンマー、フィリピン、ラオスを橋頭堡に、おそらく習近平政権は医療支援の輪をタイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ブルネイに拡大していくことだろう。その際、相手国に居住する華人社会の動向も微妙に働くはずだ。

 パンデミックを逆手に取ったような習近平政権の「新型コロナウイルス外交」は、停滞気味だった一帯一路にとって思わぬ追い風となっている。少なくとも東南アジア大陸部では、当初の狙いに沿った形で進み始めたと言っていい。

 ASEANに強い利害関係を持ってきた日本やアメリカは、いまや自国における新型コロナウイルス対策に全力を注がざるを得ず、この地域に注意を向ける外交的余裕は望むべくもなさそうだ。だが、新型コロナウイルス封じ込めに成功した暁には、この地域に戻ってくるはずだ。いや戻ってこざるを得ない。それまでの空白期間を最大限に利用し、習近平政権は一帯一路に関する既成事実の構築に努めるだろう。

 この地域の近未来図を冷静に見据えながら、日本は“新型コロナウイルス後”のASEAN外交を構想すべき時期に立ち至っているのではないか。

  
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