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2020年5月19日

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布施哲 (ふせ・さとる)

テレビ朝日ワシントン支局長

1997年上智大学法学部卒業、同年テレビ朝日入社。これまで政治部記者として国内政治を取材。防衛大学校総合安全保障研究科修了(国際安全保障学修士)、安倍ジャーナリストフェロー、フルブライト奨学生としてジョージタウン大学、米CSBA(戦略・予算評価センター)での客員フェローを経て現職。関心分野は米中関係、日米同盟、安全保障問題、中国および台湾による米国におけるロビー活動など。主な学術論文や著書に『米軍と人民解放軍』(講談社現代新書)、『対中アクセス拒否戦略』(国際安全保障学会最優秀新人論文賞)、『南シナ海問題の軍事的側面と戦略的意味』(慶應大学)など。

裏目に出る中国のパフォーマンス

 対立と不信の火に油を注いでいるのが、不可解としか言いようがない中国の動きだ。中国政府は新型コロナの国際的な危機に便乗して、自らの立場を高ようとする、あるいは米国を攻撃して相対的な優位を得ようとするかのような情報戦を仕掛けて、逆にそれが裏目に出るようなことを続けている。

 まず、その一つが中国外務省副報道官による「新型コロナは米陸軍が持ち込んだ」というツィートだ。のちに崔天凱駐米大使がこれを完全否定するコメントを出して火消しに追われる事態となった。この陰謀説まがいのツィートがどこまで組織的意思が反映されたものかは明らかではない。

 だが、これが本人の政治的イデオロギーの発露だったとすれば、外交部の幹部にまで、陰謀論に近いような感覚が浸透していることに驚きを禁じ得ないし、もしこれが上の受けを狙った「空気」を読んだ末の発言だったとすれば、荒唐無稽な対米強硬発言が評価の対象になる政治的空気が蔓延している証左ともいえ、これもまた驚愕するしかない。

 それとも、これは中国が米国を含めた世界に対して仕掛けた宣伝戦の一環なのであろうか。荒唐無稽な言説に聞こえるが、少しでもそれを信じる人が出れば、米国の評判をそぎ落とすことには確かになる。だが、そのような言説を振りかざすこと自体の、中国が受けるデメリットの方が筆者には大きように思えてならない。

 また、5月13日には米国による新型コロナのワクチン開発に関する情報を盗み出そうと、中国がサイバー攻撃を米医療機関や研究機関に仕掛けている疑いがあるとして、FBIと米国土安全保障省が捜査の開始を明らかにしている。

 中国の情報戦、対米工作のオウン・ゴールの例はまだある。英国の大手紙フィナンシャル・タイムズ紙は「自滅した中国のコロナ外交」と題した記事の中で、中国政府がウィスコンシン州議会に仕掛けた工作活動がいかに裏目に出たかを報じている。

 それによれば、同州議会の上院議長にシカゴの中国総領事から、中国の感染拡大防止の取り組みを称賛する決議案を議会に提案してもらいたい、という依頼が来たという。メールにはいかに中国共産党が素晴らしい対応をしたかを羅列した決議の文案まで丁寧に添えられていたという。

 これに対し上院議長はそのメールにこう返信したという。「親愛なる総領事殿、ふざけるな」と。

 工作のタイミングの悪さ、このような形で露呈するリスク、何よりも悪い冗談としか思えない決議の内容、いずれもどのようなメリット、デメリット計算をした上での計画なのか、そしてその目的については理解に苦しむとしかいいようがない。

 フィナンシャル・タイムズ紙は「世界における中国の評価を落とすことになったとしても、中国国民の気をそらすことにはなる」として、その目的を推測するが、筆者にはおよそ我々の感覚とはかけ離れたロジック、費用対効果が介在しているとしか思えない。

 ウィスコンシン州議会の上院議長は今、「中国共産党の残忍な姿と、新型コロナ感染を隠蔽したことで全世界に与えた損害を世界に明らかにする」決議案を準備しているという。

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