2022年9月26日(月)

WEDGE REPORT

2020年5月19日

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布施哲 (ふせ・さとる)

テレビ朝日ワシントン支局長

1997年上智大学法学部卒業、同年テレビ朝日入社。これまで政治部記者として国内政治を取材。防衛大学校総合安全保障研究科修了(国際安全保障学修士)、安倍ジャーナリストフェロー、フルブライト奨学生としてジョージタウン大学、米CSBA(戦略・予算評価センター)での客員フェローを経て現職。関心分野は米中関係、日米同盟、安全保障問題、中国および台湾による米国におけるロビー活動など。主な学術論文や著書に『米軍と人民解放軍』(講談社現代新書)、『対中アクセス拒否戦略』(国際安全保障学会最優秀新人論文賞)、『南シナ海問題の軍事的側面と戦略的意味』(慶應大学)など。

米国民の対中イメージは過去最低

 コロナ危機に乗じた対外工作が裏目に出たものはまだある。

 それは4月22日付のニューヨーク・タイムズ紙に報じられた(メディアに報じられている段階で工作活動は失敗だといえるが)米国の一般市民をターゲットにした情報工作だ。6つの情報機関関係者の話として同紙が伝えたのは、中国の工作員が米国内での新型コロナの感染拡大に際し、「米連邦政府が国家の大規模閉鎖をおこなう」というデマ情報を一般国民に向けて携帯電話のショート・メッセージを通じて拡散させたことに関わったというものだ。

 偽メッセージは携帯電話に届けられると、その後、瞬く間にSNSを通じて広がっていたという。これは米国民の携帯電話に直接、偽メッセージが送りつけられたという意味で、今までにない工作活動で米情報機関に衝撃が走っているという。

 ただ、中国側の関与の度合いはハッキリしていない。駐米中国大使館にいる外交官身分を持つ情報機関員まで関わっている大々的な作戦なのか、偽メッセージをゼロから作成したのか、それとも末端の工作員が既に出回っていたデマを拡散させただけなのか、その詳細はわかっていないという。

 2016年の大統領選挙におけるロシアによる情報工作を思わせる、この工作の目的は「相手国を分断させるための常套手段」(メイン州選出のキング上院議員)だと見られている。同紙は米情報機関幹部の話として中国政府が関係機関に世界規模で偽情報を流す情報工作を指示したと伝えている。

 このニューヨーク・タイムズ紙が報じる対米情報工作が事実だとすれば、その目的は達成できたと言えるのだろうか。米国内の政治的な分断と激しい党派的対立は相変わらずだが、少なくとも連邦政府やトランプ政権の信頼が地に落ちるような混乱は起きていない。

 米国世論の動向を見る限り、こうした工作活動や働きかけは、むしろ成果を挙げるどころか逆効果で、損失の方が大きいように筆者には見える。少なくとも米中関係の安定には大きな代償を伴ったといえる。それは最新の世論調査を見れば明らかだ。今、米国世論の対中イメージは過去最低に落ち込んでいる。

 ピュー・リサーチセンターが4月21日に発表した調査によれば、66%が中国に好感を持っておらず、好感をもっていると答えた人は26%にとどまっている。また、71%が習近平国家主席を信頼できる人物としてみなしていない。

 党派別で見ると、保守的な支持者が多い共和党支持者の72%が、リベラルが多い民主党支持者の62%が中国に対する見方を悪化させている。これまでの傾向として対中認識を悪化させているのは50代以上に多かったが、今回は若者の半数以上の対中観が悪化しているのが特徴だ。これは2012年の調査開始以来、初めてのことだ。

 若者の対中認識も悪化していることを示すこのデータは、今世代と次の世代の間で対中不信が決定づけられたことを意味している点で非常に深刻だ。複数の世代を貫く対中不信は、民主、共和のどちらの政党が政権を担うことになろうとも、予見可能な将来において米中の対立を継続させる基盤になるだろう。

後編につづく

  
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