国民意識の変化を読み違え?
だが、大統領は黒人差別に対する国民の意識が劇的に変化していることを読み間違えているようだ。モンマス大学の世論調査によると、黒人差別が深刻な問題だと考えている国民は76%にも達している。2015年の調査と比べ、26ポイントも上昇している。
今回の抗議デモ参加者の怒りは完全に正当なものだとする人は57%、どちらかと言えば正当化できるとする人が21%。実に78%もの人がデモに好意的だ。他の調査でも、「黒人が警察官に不当に扱われている」とする人が57%いるが、白人の半数が「そう感じている」と回答しているのは注目に値する。
同紙は「明らかに国民意識の劇的な変化だ」という専門家の見解を伝えている。別の調査によると、オバマ氏が大統領に就任した2009年、黒人が平等な権利を獲得できるよう必要なことをやるべきだとする白人は36%しかいなかったのに、「黒人の生命は大切だ」運動が浸透した17年には、過半数を超える白人が黒人の権利向上に賛同している。
トランプ大統領はこうした国民の意識の変化を読み違えたか、あるいは理解しようとせず、再選のことだけを考えて力によるデモ抑え込みを図ろうとしているのではないか。デモの大半は平和的に行われているのに、大統領は一部の略奪者と一緒くたにしてデモそのものを取り締まろうとし、その反発にあえいでいる、というのが実際のところだろう。
しかも、政権内部から大統領の方針に公然と反旗を翻す動きも出始めている。エスパー国防長官は「軍投入は最後の手段」と言明し、ワシントン周辺に展開していた1600人の部隊の一部撤収と、同様に投入されていた4000人の州兵に対して武装解除するよう命じた。トランプ大統領が「反乱法」を適用して軍投入を辞さず、との強硬方針を示していただけに、あからさまな抵抗ともいえる。大統領副報道官は「軍投入を判断するのは大統領だ」と国防長官をけん制しているが、政権中枢の亀裂が表面化した格好だ。
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