2024年4月20日(土)

From LA

2020年6月13日

MJも1億ドル寄付

 もう一つの例は、世界的なブランドであるルイ・ヴィトンの黒人デザイナー、ヴァージル・アブロー氏の発言撤回と謝罪だ。同氏は米国の暴動でヴィトンの店舗も襲撃、破壊を受けたことに対し「ひどい行為だ」と発言したが、これに反発する声が高まると発言を撤回、「私や友人たちの店が略奪されたことについて語った。しかしこれらの店舗への私の心配が、正義を守り怒りを表明する権利に対する関心を上回ってしまったことを謝罪する」とした。

 しかしなぜアブロー氏は謝罪する必要があったのか。抗議行動と破壊略奪行動は別のものだ。差別された怒りを表明するために暴力的な行動を起こすことが正当化されるのは間違っている、と声を上げることがなぜ批判の対象になってしまうのか。

 米国の黒人セレブもこうした世の空気を煽っている。ハリウッドを中心とするミュージシャン、俳優らが「暴動で逮捕された人々の保釈金を支払う」などと次々に発言し、多くの資金が集まっている。また元プロバスケットボール選手で神様とも呼ばれるマイケル・ジョーダン氏は自身とジョーダンブランドにより、今後10年間で1億ドルを人種差別に反対する団体などに寄付する、と語った。

 その一方で、暴動で被害にあった人々への救済については語られていない。巨大企業によるチェーン店はともかく、個人商店、レストランなども数多く被害にあっている。また車を燃やされたり破壊され、翌日からの仕事に支障が出た人も少なくない。ところが暴徒に発砲した商店主が逮捕されるなど、米国で認められてきたはずの自衛権も存在しない有様だ。

 米国にとって人種差別というのは非常にデリケートな問題だ。平和的な抗議行動は起こされて然りだし、黒人だけでなく人種差別の対象となるすべての有色人種がこの問題について意見を述べることは大切だ。しかし現状は「忖度」があまりにも先行し、事の是非まで歪められている印象もある。略奪行為まで正当化されるのなら、米国の正義は根本から揺らいでいる、と言っても過言ではない。

  
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