2024年12月22日(日)

From LA

2020年5月20日

 このところ米国では自粛反対、経済再開を訴えるデモで「我が国にもスウェーデン方式を」とプラカードを掲げる人が目立つようになってきた。スウェーデンが独自のコロナ対応で都市封鎖などを一切行わず、レストランやバーも営業、学校も閉鎖せず普段通りの生活を続けているのは周知の事実。米国にもなぜそれが出来ないのか、という訴えだ。

 驚くのは共和党からもスウェーデン方式を称賛する声が上がっている、という事実だ。共和党の有力議員として唯一コロナに罹患したランド・ポール上院議員などもその勢力で、「早すぎる経済再開はコロナの第二波を呼び、多くの米国人が犠牲になる」など、自粛解放への慎重姿勢を示す国立アレルギー感染症研究所所長、アンドリュー・ファウチ氏を厳しく批判し、「なぜ米国はスウェーデン方式を取り入れて学校などを再開してはならないのか」と畳み掛けた。

(Darwin Brandis/gettyimages)

積極派は共和党支持者、慎重派は民主党支持者

 米国では経済再開に積極的な姿勢を示すのは共和党支持者、慎重派は民主党支持者、という色分けができつつあるように見える。民主党は国民への経済刺激支援金の第二弾を強く訴えており、政府が補償することで経済活動の再開を先延ばしにする方針、共和党はこれに難色を示し、経済再開により国力の確保を、というのが中心になっている。しかし、それにより共和党政権の中枢にいる人々、支持者らが共和党の理念とは対極にあるスウェーデンを称賛する、というなんとも皮肉な現象が起きている。

 スウェーデンを初めとする北欧諸国は、どちらかと言えば民主社会主義、つまり共和党が(民主党の保守派も、だが)敵視するバーニー・サンダース氏の理念に非常に近い国だ。前回の選挙でも共和党からは「サンダースは米国ではなくデンマークの大統領になるべき」という批判が起きたほどだ。社会保障制度の充実、しかしそれに伴う高い税率、個人の意思や行動の自由、そしてそれに伴う責任、政府への信頼、などがスウェーデンの特徴と言えるが、すべて今の米国にはないものである。

 ロサンゼルス郡を例にとってみよう。5月9日、自粛の一部が緩和され、一部小売業の営業が再開した。それに続き、13日にはすべての小売業とそれに関連する製造業や流通業の営業再開、ビーチの解放、テニスなどを含むスポーツ施設も再開となった。しかしそれと同時に外出自粛は7月末まで延長され、学校も今年度末までの休校が決定、さらに外出時には全市民にマスク着用が義務付けられた。

 ロサンゼルス郡は今も1日1000人程度の新規感染が続いており、1日あたりの死者は5月15日にはこれまでで最高を記録した。そんな中で自粛を緩和するのは経済のこれ以上の打撃を防ぐためだ。しかし緩和の意味を取り違え、何をしても自由だ、とばかりに街に繰り出す人も増えている。そのために外出自粛の延長とマスク着用義務、という形で縛りをかける必要がある。

 要するに個人の責任と判断において冷静に事態に対処し、口うるさく言わなくてもきちんと行動できるスウェーデン人と比べて米国人はあまりにも子供すぎるのだ。その上銃を所有している。ミシガン州で起きた、スーパーの警備員がマスクをせずに入店しようとした客を注意したところ射殺された、というとんでもない事件が好例だろう。カリフォルニアでも射殺には至らなかったが同様に警備員が殴られて負傷、という事件が起きた。

 コロナは決して去っていない。経済をスムーズに再開するためにはその事実を弁え、個人が責任ある行動を取るべきなのだが、個人の行動の権利と義務を履き違えている人が多すぎる、というのが米国の現状なのである。

 しかもスウェーデンは決してコロナウィルスに「勝って」いるわけではない。人口1023万人に対し感染者は3万143人(5月16日現在)、死亡者は3679人に上っている。日本の感染者数1万6285人、死亡者744人に比べても非常に多い数字だ。また小売業や学校を閉鎖していない、とは言えスウェーデンも観光が大きな産業の一つであることに変わりはなく、経済的な落ち込みは他国と比較して軽いとは言えない。


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