米国は今、黒人男性が警察官により不当に殺害された、という問題を発端とした暴動に揺れている。人権の侵害は起きてはならないことだし、偶発的に殺害された男性への同情と怒りが大きな動きとなっていることは確かだ。
しかし、大きく報道されないがそれ以上の人権侵害が起きている、という事実についてもっと語られるべきではないか、と考える。それは不法移民を収容するデテンション・センターと呼ばれる施設で起きていることだ。
トランプ大統領の就任以来、不法移民への取締は強化された。世界から批判を浴びたものの中には「不法移民として捉えられ、施設に収容される際に親子を引き離す」というものもあった。しかも親から引き離された子供らは不衛生な環境の中で病気になり、時に死亡することまであった。
現在のコロナウィルスによる混乱の中で、この不法移民収容施設では多くの感染者が報告されている。5月1日の時点で施設に収容されている人々はおよそ3万人、うち490人がコロナ陽性反応が確認されていたが、その時点でPCR検査を受けたのは1000人程度にとどまっている。施設職員も36人からウィルスが検出されたという。感染者は5月31日の時点で1400人以上となったことが明らかになった。
もちろん、施設側もある程度の対策は行ってきた。特にコロナの広がりが激しかったニュージャージー州を中心に、過去の犯罪歴などがない人を中心に全米で700人が施設から一時的に解放された。これは刑務所などから服役者が解放されたのと同様に、感染の広がりを食い止めるための措置だった。しかし全体から見ればわずかな数字に留まっている。
5月初めに英BBCがカリフォルニア南部、サンディエゴの施設に取材を試みたところ、収容されている女性から「職員が感染を恐れて働きに来なくなったため、食事の提供も滞っている。収容者にマスク、手袋などは支給されず、誰もが感染を恐れている」という証言が得られたという。
ある施設でウィルスの抗体検査を実施したところ、115人のうちなんと89人から抗体陽性反応が出た、という報道もあった。米出入国管理局(ICE )は今日に至るまで全国の正確な数字を公式に出しておらず、それぞれの所轄自治体に対しても数字の公表を控えるよう通達している、という。しかしところどころで漏れる情報を拾い集めると、一週間で感染者が3倍に増えた、などの恐ろしい数字が聞こえてくる。
不法移民の収容施設は、あまりにも数が多いため民間に運営を委託されているところも多い。そうした場所では医師や看護師の派遣、衛生状態の管理などがおざなりになっていても外部に状況が伝わりにくい、という問題もある。不法移民のためのボランティア活動をしている人々から警鐘を鳴らす訴えはあるものの、国全体がコロナパニックから抜け出せていない現状で、不法移民の扱いにまで手が回っていないのだ。