2024年12月9日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年6月19日

 エジプト大統領選を控えて、米スタンフォード大学フーバー研究所のFouad Ajamiが、ウォールストリート・ジャーナル5月25日付で、大統領候補はムスリム同胞団を基盤とするMohammed Morsiと、軍を代表するAhmed Shafiqに絞られてきたが、いずれが大統領になるにせよ、エジプトには伝統的な礼節があり、レバノンやシリアのような内戦にならないだろう、と言っています。

 すなわち、モルジは米国で教育されたエンジニアで、ムスリム同胞団の候補、シャフィクは元空軍司令官でムバラク政権最後の首相を務めた人物で、法と秩序を主張し、イスラム主義者に対する防壁となることを標榜している。このイスラム主義と軍を代表する2人が決定戦に残ったことは、エジプトの現状をよく象徴している。

 シャフィクは地方で支持を得ている。地方の農民にはタハリール広場への思い入れはない。それに、エジプト人は元来、指導者には従順であり、また、ムバラクが去った後の混乱を前に秩序の回復を望んでいる。

 他方、イスラム主義者は、シャリア法による支配を考えているが、これはエジプトでは無理だろう。イランやサウジの神権政治は石油の富によって支えられている。しかし、エジプトにはそうした恩恵はなく、経済問題などが山積している。実際、軍は、経済的特権を維持し、安全保障、対米・対イスラエル外交を担当できれば、それでよく、経済に関する責任はむしろ文民政府に委ねたいと思っている。

 しかし、いずれにしても、 エジプトには伝統的な礼節、穏健さが残っており、また、壮大な大義に対して懐疑的な傾向があるので、レバノン、シリア、イラクのような暴力的な宗教的紛争は起きないだろう。

 また、決戦に臨む大統領候補者の2人とも、タハリール広場の産物ではないが、革命の果実が革命を戦ったわけではない者によって摘み取られることは、何も今回が初めてではない、と言っています。

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 アジャミの論評は、常に瞑想的、思索的であり、歴史的であり、晦渋であって、具体的な結論はありません。


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