2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年8月10日

爆発事故前のレバノンの状況は?―新型コロナウイルス

街中の様子

 レバノンのコロナの状況は、8月8日時点で、感染者約5000人、65人の死者が出ている。

 3月中旬からロックダウンが行われていたが、7月1日には空港、国境が再開された。しかし、感染の拡大がおさまったからではない。経済不況、コロナによる影響も加わって、これ以上のロックダウンは経済的にもうもたないという理由が本当のところだ。再びコロナの感染者が増えている。

 レバノンの状況は、コロナが仮に収束したとしても、経済問題も同時に抱えているので、まったく先が読めないことだ。

 経済危機にコロナの影響。よく人々から聞くのは、戦争していた時よりも現在の方が大変だという声だ。戦争していた時のほうがずっと経済状態もよかったし、恐怖感もなかったというのである。それほど人々の抱える不安と問題は大きいのだ。

ここまでレバノン政府が危機的になった原因は?

 経済危機に、周辺国に左右される政治。なぜレバノンはここまで混乱してしまったのか。

 レバノンには、大きくはキリスト教徒、イスラム教・スンニ派、シーア派と3つの宗教、宗派が存在している。(詳しくはこちらhttps://wedge.ismedia.jp/articles/-/19611)かつての内戦の反省から、勢力争いにならないように、宗派ごとにそれぞれに権力や利権が分配されることになった。しかしそれが、信仰心というより、利害集団として機能するようになった。

 どこの党や宗派とくっついた力を持つかが重要になり、そしてこの利害集団が経済界をも牛耳っているために、能力のある人が仕事につけない、公平な競争が行われない。コネがいつもものをいうなど、経済界でも腐敗が起きた。

レバノン人にとってのヒズボラとは何者か?

 大抵はどの党も腐敗しているが、いつも話題になるのはヒズボラだ。

 今回の爆発事故ではヒズボラとの関連が「噂」された。ヒズボラと敵対するイスラエルが、事故と見せかけてヒズボラ関連の武器などの物資を狙ったというのだ。しかしこれは人々の想像でしかなく、いまのところ関係を示す証拠はない。ただここで重要なのは、ヒズボラの存在感の問題だ。

 ヒスボラとは何者か。ヒズボラはシーア派が中心となった政党であり、軍事組織だ。アメリカ政府、あるいは日本政府からはテロ組織として指定されているが、レバノンでは合法政党でもある。国会議員もいるし、ヒズボラの市長もいるし、一応のところ「過激派ならずもの組織」ではないのだ。

 そもそもヒズボラは、レバノンで立場の弱かったシーア派の権利の拡大と貧困状況の改善、イスラエルの滅亡、パレスチナのための抵抗を掲げて始まった。今でも社会福祉には力を入れていて、学校や病院を運営したりしている。コロナ対策でもヒズボラは2万4000人の医療従事者を配置した。消毒活動や、食料配給も行なっている。

 軍事的な側面としては、イラン政府とシリア政府と関わりが強く、これらの政府は自分たちのかわりにイスラエルを攻撃する存在としてヒズボラを支援している。イスラエルに協力する側とみなす勢力に対して、かつては自爆攻撃や誘拐なども行ってきた。つい最近でも、イスラエル軍と衝突している。またシリア戦争でも、ヒズボラ部隊は国境を超えてアサド政権側に立って戦闘に参加している。

 ヒズボラが嫌いなレバノン人はたくさんいる。昨年末からのデモでもヒズボラへの不満は広く訴えられた。実際に、ヒズボラ民兵が、デモに参加した一般人を攻撃していたとの報道もある。

 一方でヒズボラが好きな人もたくさんいる。他の政党がちゃんとしているのかといえば、他の政党はヒズボラ以上に腐敗している。ヒズボラは軍事組織を持ち、批判はご法度で、麻薬貿易もしているとみられるが、内部での腐敗は他党と比較すれば少ないと考える人は多い。それゆえ、ヒズボラのほうがマシと考えるシーア派以外の支持者もおり、社会福祉事業からヒズボラを支持する人もいるのだ。目的のためには手段を選ばず、対抗勢力には容赦ないが、ヒズボラの支持者には様々な恩恵を与える。

 しかしその影響力も限界があるのかもしれない。爆発は事故だったというのが大方の原因であり、8月8日、ヒズボラの指導者、ハサン・ナスラッラーが演説を行い、ヒズボラは爆発事件との関係を断固として否定している。それでも、爆発事故に限らず、人々の積み重なった政治経済への苛立ちが、現政権はもとよりヒズボラにも向けられている。


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