今回のテーマは、「終盤戦におけるトランプとバイデンの選挙戦略」です。米政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティックス」による各種世論調査の平均支持率(2020年9月3~15日実施)をみると、民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領が49%、共和党大統領候補のドナルド・トランプ大統領が43.1%で、同前副大統領が約6ポイントリードしています。
ただ、サフォーク大学(米東部マサチューセッツ州)と、USAトゥデイ紙の共同世論調査(20年8月28~31日実施)によれば、「選挙でどちらの候補が勝つと思いますか」という質問に対して、44.1%がトランプ大統領、41.3%がバイデン前副大統領と回答しました。トランプ氏が約3ポイント上回っています。
9月29日に開催される「大統領候補による1回目のテレビ討論会でどちらの候補が勝つと思いますか」という同調査の質問に関しては、47%がトランプ大統領、40.9%がバイデン前副大統領と答えました。こちらはトランプ氏が約6ポイントもリードしています。
全体の支持率ではバイデン氏が上回っているのですが、米国民の本音は「トランプ勝利」のようです。
11月3日の投票日まで残り45日になりました。トランプ氏はどのようにして支持率を伸ばしていくのでしょうか。それに対して、バイデン氏は支持率のリードを維持できるのでしょうか。本稿では終盤戦におけるトランプ・バイデン両氏の選挙戦略に焦点を当てます。
「露出度アップ」と「効率」
16年米大統領選挙で、クリントン陣営の選対本部長を務めたロビン・ムーク氏は、ラジオ番組のインタビューの中で敗因について、トランプ大統領にメディアを支配されたことを挙げました。ヒラリー・クリントン元国務長官はメディアの露出度でトランプ氏に敗れたというのです。
20年大統領選挙において、トランプ大統領は保守系の米FOXニュースのみならず、同陣営からみるとリベラル系のABCニュース主催のタウンホール・ミーティング(対話集会)にも参加し、どちらの候補に投票をするのか「決めかねている有権者」からの質問に答えました。露出度でバイデン氏を圧倒する思惑が透けて見えます。
加えて、コロナ禍のために収容人数が2万人規模のアリーナで大規模集会を開催できないトランプ大統領は、激戦州を大統領専用機(エアフォースワン)で周り、空港の格納庫及び屋外に支持者を集めて集会を開催しています。極めて効率の良い選挙戦略です。
共和党全国委員会(RNC)は地上戦でトランプ大統領の援護射撃を行っています。驚いたことに、同委員会のフィールド・ディレクター(地上戦の責任者)が、このコロナ禍にもかかわらず、8月に毎週100万軒以上の戸別訪問を実施したと、米メディアに明かしました。同委員会は、終盤戦において新型コロナウイルス感染リスクの危険性を二の次にして、従来型の選挙運動を展開しています。
一方、バイデン氏と民主党副大統領候補のカマラ・ハリス上院議員(西部カリフォルニア州)はマスクを着用し、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保って少人数の支持者と対話を図っています。トランプ・バイデン両陣営の選挙運動スタイルの相違は、終盤戦で一層明確になってきました。バイデン氏は支持者の命を最優先した選挙戦を展開しています。
これは全く正しい判断ですが、トランプ氏と比較すると露出度が低く、しかも支持者の熱意を高められず、非効率的な選挙運動を行っていると言わざるを得ません。