2022年7月1日(金)

足立倫行のプレミアムエッセイ

2020年10月10日

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日本人がゲーテ好きな理由

 私は今回、頭木さんの2冊の本を再読し、認識を新たにしたことがある。

 一つは、日本人がゲーテ好きな理由。ゲーテ6歳の1755年、リスボンで大地震と津波が発生、6万人が一瞬のうちに死んだ。

 以来ゲーテはキリスト教の神に疑いを持ち、花、風、水など「自然の中に神はある」と信じるようになった。

 また、カフカ世界との重複。ゲーテは19歳の時に結核になり、フランクフルトの実家に戻り療養した。すると父親は退学に失望し息子に怒りをぶつけた。外出できず家族の負担になった息子。同情する母と妹。不満な父。まるでカフカの『変身』である。ゲーテは1年半で回復したが、2度と実家に戻らなかった。

 父親との葛藤が人生の核となったのはカフカも同じだった(ただし、カフカは両親と同居し続けた)。

 幼い頃、カフカが水をねだると、父親は突然バルコニーに放り出し扉を閉めた。この体験は恐怖心と罪悪感の源泉となった。罪がなくとも、不意に理由もなく罰を受ける。罰(失敗の結果)のせいで、罪悪感が湧く……。

 一代で財を成した頑健な商人であるカフカの父。その父にとって、軟弱で商売に興味のない息子は期待外れだったに違いない。

 でも、そうした父子葛藤は世間によくあるケースだ。ところがこのトラウマを胸に刻み、目の前の城に決して辿り着けない男(『城』)や、わけのわからない訴訟で処刑される男(『審判』)の話を書き、「究極の人間疎外」として世界文学にまで昇華させたカフカ。

 頭木さんも自著の中で指摘するように、「人は絶望からも力を得ることができるし、絶望によって何かを生み出すこともできる」のだ。この事実は、出口の見えないトンネルの中で、1本のローソクにならないだろうか?

 ちなみに、カフカは終生ゲーテを尊敬した。カフカが唯一訪問した作家ゆかりの地は、ワイマールのゲーテ記念館だった。

  
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