2024年12月7日(土)

Wedge REPORT

2020年9月26日

 国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会が7月9日に新たな水災害対策のあり方を赤羽一嘉国交大臣に答申した。国交省の担当局長である五道仁実・前水管理・国土保全局長に自然災害が激甚化、頻発化している現状に対して、いま最も必要とされる国としての治水対策は何かを聞いた。

(Hafiz Mustapha/gettyimages)

Q 答申で打ち出された新しい治水対策は何か。

五道前局長 昨年11月より、同審議会「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」で、気候変動による降雨量の増加、人口減少や技術の進展などの社会動向の変化を踏まえた抜本的な水害対策への転換について議論を進め、答申が出された。この答申は①ハード・ソフト一体の事前防災対策の加速化②治水計画を過去の降雨実績に基づくもの」から「気候変動による降水量の増加などを考慮したもの」に見直す③従来までの河川管理者等が主体となって行うハード対策を加速化することに加え、その河川の流域の国、自治体、民間の企業、地域住民などあらゆる関係者が流域全体で治水対策を行う「流域治水」への転換が柱となっている。

 これから、ハード・ソフト一体の治水対策を明らかにし、事前防災対策を加速化する。また、「流域治水」へ転換するための政策をこれから具体化していくが、気候変動の増大に対し、堤防やダム、遊水地等の治水施設の整備などのなるべく氾濫を防ぐための対策を加速・充実する。これらの治水施設が整備途上であることや施設能力を上回る洪水が頻発している現状を踏まえ、氾濫した場合を想定して、被害を回避するため、水害リスクの高い地域の土地利用規制やより水害リスクの低い地域への誘導といったまちづくりや、土地のかさ上げやピロティ構造といった住まい方の工夫等により被害対象を減少させる対策、氾濫の発生に際し、避難するための体制の充実といった被害軽減や被災地における早期の復旧・復興のための対策、といった3つの観点を組み合わせ、総合的かつ多層的に対策を講じることが重要と考えている。

Q この数年、1時間に100ミリを超すような想定を超える豪雨が常態化している。これまでの洪水ハザードマップでは十分な避難体制が確保できなくなるのではないか。

A これまでは「100年に一度」程度の降雨量に対応したハザードマップを自治体が整備してきたが、15年に水防法が改正され、現在、想定し得る最大の降雨規模(「1000年に一度以上」)の降雨量に対応したハザードマップに順次改定を行っており、避難に必要な水害ハザード情報の充実を自治体と連携して図っている。

Q 過去20年間の調査で、洪水ハザードマップで指定した区域に区域外から309万人も移り住むようになったという報告がある。洪水ハザードマップの指定はされたが、実際の土地利用面では役に立っていないのではないか。

A これまでは、都市計画区域のハザードエリア内に自己の業務用施設を建てようとすることに対して国や地方自治体はブレーキをかけるのは難しかった。しかし、土地利用方策として都市計画法を改正して、土砂災害特別警戒区域などのいわゆる「災害レッドゾーン」において、病院、社会福祉施設、店舗、工場等の開発を原則禁止し、浸水ハザードエリア等についても、市街化調整区域における開発許可を厳格化するなど新たな制度を導入する方針だ。

Q 「災害レッドゾーン」の指定は、国と自治体が浸水被害を防止するため、より強い行政権限で一歩前に出たということになるのか。

A 既存の建物を動かすことは難しいが、新しく建てる場合には「災害レッドゾーン」を指定することで危険地域での開発を抑制できる。高度成長期では、「総合治水」という考え方で、開発業者に対して調整池を設けるなど対策を求めてきたが、人口減少社会になり土地利用の仕方についても流域全体で考えていかなければならない。

Q 宅地建物取引法を改正して、宅建業者に対して浸水想定範囲や避難場所が示された市町村のハザードマップで物件の所在地を買主に重要事項として説明するよう義務付けることにしたが。

A かねてから業界団体に申し入れてきていたもので、8月28日から施行する。この義務を怠った業者に対しては、悪質な場合は業務停止命令などの行政処分を行う罰則規定を設けた。これにより、買う側に対して対象物件がある場所が浸水の恐れがあることを周知徹底させられるので、ハザードマップ内にある物件に住むことに対して抑制効果が働くのではないか。


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