2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2020年10月25日

農家団体で技能実習生100人超を受け入れ

小久保恭一さん

 技能実習生を中核的な人材に育ててきた農業法人が、大分県豊後大野市にある。3.5ヘクタールで菊を栽培するお花屋さんぶんご清川だ。1輪仕立ての輪菊を中心に、年間350万本を出荷する。代表取締役の小久保恭一さんは、菊の生産者グループ・お花屋さん(愛知県田原市)の代表も兼ねる。グループの売上高は約20億円で、JA外の菊の生産者団体としては最大級だろう。

 そもそも小久保さんは、仏花としての菊のイメージを確立した人物だ。加えて、育苗から箱詰めまで農家が一貫して担うのが当たり前だった時代に、苗を海外から輸入する国際分業を提唱し、実現する。今では菊の苗を輸入するのは、ごく当たり前になった。

 技能実習生は、制度の運用が始まった初期から受け入れてきた。今は、技能実習生を受け入れる農家の団体を率いる立場だ。愛知、大分両県の50軒近い農家が加わっており、120人ほどの技能実習生を受け入れている。ところが、コロナ禍で「3分の1ほどが入国できなくなってしまった」。お花屋さんぶんご清川も、本来9人いた技能実習生が4人に減っている。

 技能実習生を受け入れる一方で、小久保さんは経営のブラッシュアップに余念がない。年間を通じて菊を出荷するため、年に90作もしており、当然ながら通年での雇用を実現している。生産する菊は、品質の高さで知られており、高値で取引される。

 ハウスの中には幅3メートルにもなる広い道が通っている。これは、出荷時にトラックをハウス内に乗り入れ、そのまま出られるようにするためだ。また、地上に潅水パイプを這わせるのが通常だけれども、頭上から潅水する。菊の植え替えのたびに潅水パイプを取り外し、再度設置する手間を省くためだ。

 人の確保が年々難しくなっているため、人しかできなかった作業をロボットに担わせられないかとも考えている。詳しくは別稿(『コロナ禍で露呈した外国人労働者不足 ご都合主義に終止符を』)をご参照頂きたい。ここ数年、スマート農業がもてはやされるようになったけれども、小久保さんは35年も前にイスラエルからハウスを全自動で制御するシステムを導入しており、筋金入りだ。

 経営の無駄は徹底して省く一方で、高い品質を保つには、どうしても人手が必要になる。ただ、農場のある山間の地域は過疎高齢化が進んでいて、地元で人を確保するのは容易ではない。技能実習生は欠かすことのできない働き手なのだ。同社で伴侶を見つけ、大分県に定住した技能実習生は4人にもなる。

小久保さんと実習生

 「地域から人口がどんどん減っている。一方でマンパワーは必要なので、どちらかというと、自分は移民推進派だね」

 小久保さんはこう話す。

 技能実習生の入国が一部再開され、9月から週に数百人が入国している。法務省の新型コロナウィルス感染防止に係る上陸審査の状況(速報値)によると、8月31日~9月27日までの技能実習生の入国数は、1732人。とはいえ、2019年9月は1ヶ月で約2万人が入国しており、今の受け入れ人数とは開きがある。農業現場には受け入れのない状態で帰国だけが進むところも出てきた。

 農業の人手不足はコロナ禍よりもずっと前から深刻化している。作業時期に偏りがあり周年雇用が難しい稲作を除くと、全国の大規模な経営体で技能実習生を見かけることは珍しくない。紹介した農業法人2社は、人材育成に定評があり、優れた経営で知られる。それでも人材確保に手を焼いている実情があるのだ。

 技能実習制度に問題点は少なくなく、コロナ禍によってそのもろさが露わになった。より安定した形で外国人を雇用できる仕組みが必要ではないだろうか。

  
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