2024年4月28日(日)

Wedge REPORT

2019年12月11日

 北海道岩見沢市は、高精度の測位ができるRTK-GPS基地局を全国に先駆けて導入し、市内全域で農機が正確な位置を把握できる環境を整えた。150台以上の農機が自動操舵に対応している。次のステージとして、作業情報を統合しビッグデータ化する、5Gを使った大量の情報のやり取りをするといった構想を持つ。

自動運転対応のハンドルと走行経路が表示されるモニター(松永農場で撮影)

農地のブロードバンド環境とRTK測位の基地局整備

 北海道空知地方に位置する岩見沢市は人口約8万人で、農業と工業が主要な産業だ。同市は農業界でよく知られた存在だ。水稲の作付面積が北海道最大で、行政面積の42%が農地という一大産地であるのに加え、RTK基地局を全国に先駆けて整備したからだ。市内にはGPS対応の農機が150台以上ある。所持する農機4、5台が自動運転に対応しているという農家もいる。今では海外も含め、年間に何十もの視察団が訪れる。

 市がICTに力を入れ始めたのは1993年ごろで、四半世紀も前のことだ。当初は農業の生産性を高める以前の農村に人に住み続けてもらうための方策として、光ファイバー網を全国で初めて独自に整備した。その総延長は200キロメートルほどにもなる。まずは住宅、次いで農地で高速のインターネットに接続できるブロードバンド環境を整備した。

 「スマート農業というのは、農地が現場です。有線ではなく、圃場を面でカバーできるBWA(広帯域移動無線アクセス)システムを使うことにしました」

 岩見沢市情報政策推進担当次長で長年市内でのICT活用を進めてきた黄瀬信之さんはこう説明する。ブロードバンド環境の整備に加え、2013年にはRTK測位に対応する基地局を3カ所設置し、農機に誤差2センチ程度という高精度の位置情報を提供できるようにした。

 GPSを搭載した農機を使う場合、広域をカバーする基地局が整備されていなければ、農業者は自前で小型の基地局を購入し、作業場所の近くにいちいち設置する必要がある。安いものではないし、持ち運びが煩瑣で、もし地域にこうした農機の使用者が多いなら、地域として整備する方が効率的だ。

 そうは分かっていても、誰が設置費を負担するのか、行政かJAか使用する農家か……と議論が紛糾し設置が進まない自治体もあった。それに対して同市は、早々と整備に踏み切ったのだった。

 同年には農業気象配信サービスも始めた。これは、市内13カ所に設置する気象観測装置のデータなどを解析し、降水量や気温、降雪量といった気象情報や病害虫の発生予想などの情報を50メートルメッシュで提供するものだ。気象情報の提供は無償。コメ、小麦、タマネギについて年間4000円の料金で病害虫の発生や収量などの予測情報を提供する。

 これにより、タマネギ農家が予測される病害に合わせてより適切な資材を購入することで費用の軽減になったり、水田農家が水温の予測に基づいて適切な水管理がしやすくなるといったメリットがある。

農家が自動操舵を積極的に導入

 やはり13年に「いわみざわ地域ICT(GNSS等)農業利活用研究会」を市内の農家109人で設立した。農家自らがICTを使った次世代型農業の実証や普及をするための組織で、今年中にメンバーが200人に達する見込みだ。ちなみに岩見沢市の販売農家(農業所得が主な農家)は約1000戸で、ICTを農業に取り入れる農家が他地域に比べて多いといえるだろう。

 メンバーの多くは、農機に自動運転に対応した自動操舵用のハンドルや、カーナビのように走行すべき経路が示されるガイダンス画面、GPS受信機を搭載している。多いのはニコン・トリンブルやトプコンの製品だ。市はこうした製品の導入費用の一部を補助する。

松永有平さんと自動運転対応のトラクター。松永さんは松永農場の代表と、販売会社である松永園の代表取締役という二つの顔を持つ。作業の効率化に熱心な一方で、農家には珍しくコメのスペシャリストである「五ツ星お米マイスター」の資格を持っており、消費者ニーズを的確にとらえた生産・販売を目指す。

 市内でコメ約27ヘクタール、小麦約13ヘクタールを生産する松永有平さんは研究会メンバーで、所有する135馬力のトラクター1台を自動運転に対応させている。2017年にトラクターを買い替えたタイミングで、ニコン・トリンブルの自動運転対応のハンドルと、ニューホランドのモニターを取り付けた。

 最初に走行ルートを設定すれば、旋回は自分でしなければならないが、直進走行は手放しでできる。圃場ごとに作業内容を記録できるので、一度作業をすればその内容を次年度以降に呼び出すことも可能だ。

 設定した作業幅で的確に作業できるので、切り返しの時間を短縮でき、作業の重複が減る。監視のためにキャビン内にいる必要はあるけれども、常に自分で操縦するのと比べ、疲れ具合が格段に違うそうだ。

「ピッとボタンを押したら、一定のスピードでまっすぐ走ってくれる。ハンドルを握って、隣の列に合わせたりする必要がなく、そこに神経を使わなくなりました」(松永さん)

 作業を簡略にし、労働負担を軽くしたいという導入の目的は達成できたという。

トラクターの後ろに付けているのは可変施肥対応のブロードキャスター(松永農場で撮影)

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