私たちは中学、高校、大学でずっと英語を学び続ける。しかし、外国人と英語で議論できる人はどれくらいいるだろうか。さいたま市立浦和高校の英語教諭・浜野清澄さんは、インターアクト部の顧問として、15年にわたり英語ディベートを指導してきた。英語が話せない状態で入部する高校生を、1年で議論できるレベルに育て上げる。帰国子女や留学生のいないチームながら、世界大会の常連となっているのだ。『まったく話せない高校生が半年で話せるようになり1年で議論できるようになる英語習得法』(実務教育出版)にまとめた社会人も使えるというその勉強法や、英語教育の課題を聞いた。
英語教育に足りない実技の練習
――英語が話せない子が半年で話せるようになり、1年で十分議論ができるようになると。タイトルにもありますが、衝撃的でした。
そう言って頂けるのは嬉しいんですけれど、生徒や私からすると、練習しているんだから、話せるようになるのはある程度当たり前という感覚です。水泳や野球、バスケットボールと同じで、英語も実技だと考えることが大切です。私も生徒も、練習すれば上達すると思ってやっています。やった分だけ結果として返ってきている感覚なんですね。
――日本人は何年も英語を勉強するのに、しゃべれないとよく言われますね。英語を教える中で、これじゃできないよねと感じた部分もあるのですか。
そうですね。皆さんが中学、高校の授業を振り返ったときに、おそらく圧倒的に練習量が足りなかったのではないでしょうか。英語はかなり実技的な要素が大きく、聞く、話す、読む、書くの4技能が大切になります。音楽や美術、体育のように、英語も練習をしないと、聞けるようにならないし、話せるようにはなりません。
英語がスキルであるということを、教員が意識していないところがあります。ずいぶん変わってきてはいるのですが、授業が知識を伝達するということ中心になってしまっている部分がまだあるんですね。なぜ話せないかというと、一番は訓練をしていないからなんです。
これをすれば、絶対にしゃべれるようになりますという方法論が、英語の教育界でまだ確立していない面もあります。教員の経験や勘を頼りにして授業が成立しているところが、残念ながらあると思います。
私が英語の指導方法を研究することになったのは、顧問を務めるインターアクト部が2011年に英語ディベートの世界大会に初めて参加することになったのがきっかけでした。ディベートの世界大会は、ネイティブに近いレベルで勝負する大会です。そこでディベートに勝てるよう指導する中で、これをやれば、必ず力がつく、4技能を獲得する近道になるという実践方法が、私の中でまとまっていきました。
行き当たりばったりの英語学習になっていないか
――執筆の動機は何だったのでしょう。
この学習法を、さまざまな方に知って頂けたらと考えたからです。英語を話せなくて困っている人の中には、どう勉強したらいいかに困り、学習が行き当たりばったりになっている方も多いのではないでしょうか。そういった人たちに高校生の実践を知ってもらって、学習上の誤解をとき、参考にして頂けたらと思っています。
ディベートには、聞く、話す、読む、書くの4技能が訓練される仕掛けがあります。4技能を使いこなさないと、議論ができないからです。留学すると語学力が伸びるのは、生きるためにその言語を使わないといけないから。それを疑似的に再現する、つまり教室の中でのディベートという勝ち負けを決めるゲームで、一生懸命やらないといけない環境を与え、成長を促すんです。
それに対して、授業ではライティングやリーディングを分けて考えがちです。上手に解説すれば書けるようになるはずだ、読めるようになるはずだといった誤解もあるかもしれません。説明をして読めるようになったら、誰も苦労しないわけで、やっぱり読む訓練をしなければいけないんですが。
――教科書通り教えることが目的化しているところもあるんでしょうか。
そうですね。我々がよく言うのが「教科書を教える」んではなくて「教科書で教える」んだと。教科書を教えても、英語をしゃべったり、聞いたりできるようにはならないので。教科書を使って、さまざまな活動をしてスキルを伸ばすことが大事です。教科書に載っているトピックや表現を使ってディベートをしたり、プレゼンテーションする訓練を生徒と一緒にやったりする。そういうことが、スキルを伸ばすことにつながるんだと思っています。