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2019年6月21日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

(Natalie_/gettyimages)

 2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される民間試験では、これまでの「読む」「書く」「聞く」に加えて「話す」が加わった4技能を測定する。「話す」技能を民間試験で入れることについては賛否両論あり、文部科学省の調査では国立大学では4割がこの試験を出願条件とはするが、合否判定に使わないと表明するなど、意見が分かれている。そこで、民間試験導入に賛成、反対の立場から識者にインタビューした。

 以前より英語のコミュニケーション能力を上げるためには「読む」「聞く」の2技能に加えて、「話す」「書く」の4技能が必要だと強く訴え続け、4技能の『伝道師』とも言えるのが、一般財団法人実用英語推進機構の安河内哲也代表理事だ。東進ハイスクールの英語教師を長年務め、いわゆる「読む」を中心とした受験英語を受験生に教えてきた経験とその反省を踏まえて「大学受験の英語が変われば、英語教育が変わる」がモットーだ。

「大学入試を改革」

Q ここに来て民間の英語試験導入に関して異論が出ていることについては

 そもそも、どうして英語の大学入試に4技能試験を加えることになったのかを理解することが大切。そこを踏まえた上で問題点を議論することが重要だ。これまでの多くの英語の授業は「文法・構文」や「リーディング」が中心で、「リスニング」や「ライティング」は少しだけで、発音練習はあっても、自分の意思を伝える「スピーキング」は非常に少ない状況だった。

安河内 哲也(やすこうち・てつや)氏 1967年北九州市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。大学受験予備校の東進ハイスクール講師。文科省の「英語教育の在り方に関する」の有識者会議の委員を務めた。一般財団法人実用英語推進機構の代表理事。2018年4月に「全解説 英語革命2020」(文藝春秋)を発刊するなど著書多数。

 多くの人は英語を使って意思を伝える練習をしたいのに、授業は一方通行の講義になってしまう傾向にあった。その大きな理由は、大学入試が難解なリーディングや文法中心で、リスニングも少なく、スピーキングの問題がほとんどないことだった。4技能が重要だと分かっていても、大学入試に出題されないから、授業でもやらないし、試験に必要のない技能は省かれてしまっていた。大学入試を改革しない限り、進学校の学生は、ずっとこれまでの受験英語を学ぶことになる。

 東大、京大も4技能を重視する方向性に反対しているわけではなく、出願条件としては4技能を求めることとなる。しかし、大学、文科省、民間試験業者トップのコミュニケーションが不足しているため、不安感が増しているのではないか。民間試験導入までにあと10カ月しかない。現在ある課題の解決するため、各所で密に協力すべきだ。また、受験生が適切な準備をできるよう、各大学からは大学入試の方式を早く発表してほしい。

 民間業者側から大学の入試課や受験生への説明も不足している感がある。今後は、すべての進捗状況を大学と共有する積極的な努力が必要だ。最近業者からの発表がようやくあったが、公平性の確保に向けて、試験の実施方法、遠隔地の受験者や障害者への配慮等、細かい点に関して詰める段階に入っている。

「指導要領に準拠」

Q 4技能をあまりに強調することで、本来の学校で教えるべき英語とかけ離れる恐れはないか

 高等学校学習指導要領に「聞いたことや読んだことを踏まえた上で、話したり書いたりする言語活動を適切に取り入れながら、4つの領域の言語活動を有機的に関連付けつつ総合的に指導するものとする」とあるように、そもそも高校では、4技能をバランス良く勉強することになっている。4技能の学習は、決してこれまでの「リーディング」を否定しているわけではなく、あまりにも「スピーキング」が少なかったから、4技能すべてを融合してレベルを上げるために、もっと「スピーキング」に力を入れるべきではないかということだ。

Q 大学入試センターは民間業者7社の23種類の試験を同センターの英語成績提供システムの参加要件を満たしていると発表しましたが、それぞれの試験の本来の目的は異なっており、これを大学受験にすべて採用するのは無理があるのではないか

A 選ぶ試験によって受験性に有利不利がでることは極力避けなければならない。このため、採用されたどの試験もCEFR(外国語の学習・教授・評価のための欧州共通参照枠)に置き換えた測定可能範囲を公表している。また、それぞれの試験は対象使用言語領域(TLU)を定め、どのような場面で使われる英語を想定した試験なのかを示している。大きく、一般、学術、ビジネスと3つに分けられる。審議会では「学習指導要領との準拠性を考えると、原則としてTLUが一般及び学術である検定試験を使用すべきだ」と述べた。ビジネス英語が中心のTOEICについて、採用することには懐疑的だった。

 複数の試験を使うことにはメリットがないわけではない。一つの試験で上位から下位までを評価するのはそもそも無理がある。それが、自分に合ったレベルや目的の試験を受験できるようになる。また、上位の海外進学を目指す高校生は、IELTSやTOEFL iBTのような、国際通用性の高い試験を利用できるようになる。ただ、どの試験がどのような用途に適しているか、もっと説明は必要だ。

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