直接測定が世界の大勢
Q 実際の「スピーキング」の試験に関しては、果たして50万人もの大量の受験生の試験を採点も含めて公平、公正にできる保証はあるか
A 2技能のマークシート方式では多数を同時に測定できた。しかしスピーキングとライティングの能力をこの方式で測るのは不可能だ。2技能の試験が目的化してしまい、スピーキングを学習しなくなることは、世界でも問題視され、今では4技能試験が一般化した。
4技能試験では、受験生にスピーキング、ライティングを、話したり、書いたりしてもらうことで、直接的に測定する。マークシートと同等の公平性は実現できないが、比較的良い波及効果を生む方法だというトレードオフの観点から、4技能試験は世界的に広がり、年間数百万人が受験している。
採点の公平性は、小論文や国語や社会の記述問題と同等のレベルは保証されなければならない。今後は採点の観点等を告知した上で、受験者とのコンセンサスを作っていくべきだ。
現在よりも多くの受験者が時期的に集中することとなるので、採点者の質をどのように確保していくのか、各機関に採用基準、採点の流れ等の最低限の情報の報告を求め、大学入試センターが監督する体制を徹底すべきだ。
Q 4技能を教える上で、現場の中学、高校の先生へのアドバイスは何か
A 様々な場所に出向いて、学校の先生や、教育委員会の方と話す機会がある。多くの場所で、休日にもかかわらず小中高校の先生を中心に100人以上の先生が集まってくれる。多くの先生方がスピーキングを含めた4技能をどうやって教えたらいいのか、熱心に学習し始めている。やはり大事なのは先生の研修だ。
ひとつ言えることは、英語の先生と言っても、ノンネイティブ・スピーカーだ。だから、英語の先生は「完璧な英語を話すべき」と思い込まないことだ。ただ、先生は生徒たちより学習経験は豊富なので、果敢に英語を学ぶモデルとなることが重要だと思う。知識伝達型から、対話を通じて学ぶ活動型の授業に移行してほしい。また、動画や音声を使って、モデルとなるネイティブの音声をたくさん使うことが大切だ。
各種の調査でも示されているように、生徒たちはスピーキングの勉強をもっとしたがっている。全国を回ってみて感じるのは、生徒たちの英語を話せるようになりたいという情熱だ。これに応えるためには、教える側の意識改革が大切だ。教師が生徒と共に言語活動を通じて英語を学ぶ授業が広がってほしい。
高校生と乖離した入試問題
Q 私大の個別試験や国立大の二次の英語の問題で、学習指導要領や高校生のレベルから逸脱した難問が出されているのを問題視されているが
A 民間の英語試験ばかりが注目されているが、有名大学の英語の個別試験には、指導要領から乖離した難解な問題がいまだに出題されている。専門的な予備知識がないと読めないようなものや翻訳ばかりに偏ったものも多く、総じて高校生の目標としては難しすぎるものが多い。
こうした問題が出され続けていると、受験生はずっと難解で分析的な受験英語の学習を強いられることになる。大学側がこうした英語の問題を出すことで何を求めているのか理解できない。高校生にいったい何を求めているのか? 正解を発表しない大学も多く、解答が割れることもあり、出題意図も分からない。メディアには個別試験をもっと問題視してほしい。指導要領と乖離しすぎていないかをチェックするために、個別試験にも監督体制が必要なのではないか。
Q 「英語革命」到来と言われるが、今度こそ「使える英語」につなげることができるのか。そのために鍵となるのは何か
A 大学入試センターは曲がりなりにも動き始めた。今後は、個別の大学問題を作っている大学の先生、入試課の皆さんが、子供たちや保護者、世の中の要請に耳を傾けてもらうことが重要だと感じる。今後の成否は、大学が作成する個別入試の内容が、時代の流れや国の方向性、世の中の要請に応えられるかにかかっている。
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