6月24日、ある人物の仮釈放の情報で、中国の家電大手の株価が20%ほど跳ね上がった。黄光裕、51歳。国美(グオメイ)の創業者で、30代半ばだった2004~08年、中国人の長者番付で一二を争った。そんな絶頂のさなかの08年、インサイダー取引や収賄で逮捕され、有罪で刑に服す。仮釈放で株価を爆上げした男の半生と、家電市場の12年の間の変遷を紹介したい。
逮捕でトップシェアから凋落
黄光裕は広東省出身。家は貧しく、16歳で兄とともに内モンゴルに移り、商売を始めた。後に北京で家電量販店を開業したところから、その伝説が始まる。同業者がしなかった薄利多売と積極的な新聞広告で、顧客を獲得した。家電販売は「厚利」をむさぼるのが当然とされた時代に、価格競争を徹底した。
1990年代後半、多店舗展開に舵を切る。エリア内に集中的に店舗を増やし、シェアを高める手法をまず北京で成功させ、全国に拡大した。一気呵成に敵陣に攻め込み、やるかやられるかの戦いを繰り広げた。2004年までに中国をカバーする家電量販チェーンを築き上げ、家電販売でトップシェアに躍り出たのだ。
黄光裕は若くして中国を代表とする富豪となり、事業を不動産や金融に拡大。絶頂のさなかの08年に逮捕され、10年に14年の刑期が言い渡された。のちに刑期は21年までに縮められ、6月24日の仮釈放に至る。
トップの逮捕は国美の未来を暗転させた。ここ4年は赤字が続く。2000年代に格下のライバルだった蘇寧(スニン)には、大きく水をあけられた。新華社によると、2019年の家電市場で、総販売額に占める国美のシェアは5.8%で、蘇寧の約4分の1に過ぎないという。
5年単位でトップが入れ替わる家電市場
ただし、蘇寧が敵失もあって順風満帆だったかというと、そうではない。2010年代に家電販売でEC大手の京東(JD.com)がシェアを拡大し、蘇寧と京東が首位をめぐって争う状況だ。アリババ傘下のTモール(天猫)がそれに次ぎ、国美は4位。家電市場のトップの入れ替わりは激しい。黄光裕が仮釈放されるまでの12年間で、トップは国美→蘇寧→京東→蘇寧と入れ替わった。
中国電子信息産業発展研究院の「2020年第一四半期中国家電市場報告」によると、20年の第一四半期に、ついにオンラインのシェアがオフラインを上回るところまで来た。コロナ禍の影響もあるだろうが、オンラインの比重が一貫して高まっており、オフラインを抜くのは時間の問題だったろう。地方の家電量販店のEC事業者への糾合も進んだ。
トップの逮捕とECの勢力拡張、そしてECへの乗り遅れでシェアを落とした国美に、かつての面影はない。黄光裕が再び国美を率いても、逮捕前と環境が一変しており、かつてのような神通力は期待できないのではないか。株価が急騰する裏で、こうした懐疑的な見方も強い。
コロナ禍で消費冷え込み
そして今、ECも含め中国の家電市場は冬の時期を迎えている。コロナ禍による消費の冷え込みというブラックスワンに苦しんでいるのだ。前出の市場報告によると、20年の第一四半期の総販売額は1204億元で、前年同期比35.8%のマイナスだ。立て直しを図る国美にとって、この状況は苦しいものがある。
国美はこのところ、ECへの進出とEC事業者との提携を進めてきた。5月には、京東と資本提携している。家電の調達、流通、配送などで連携し、約2600ある国美の店舗と京東での販売に相乗効果を生む。
日経新聞は5月30日、「今回の国美に対する出資により、中国の家電市場は主に京東と、家電販売店大手の蘇寧易購集団に19.9%を出資するアリババ集団の2陣営に分かれる」と報じた。この記事において国美は主語ではなく、京東と資本提携した家電量販店の一つという扱いだ。仮釈放された黄光裕の前に立ちはだかる壁を、象徴的に表しているように感じる。