危機を乗り越えた新人
重大な転機は5~4万年前に訪れた。
それまでも周期的な気候変動によって長期的人口減少を続けていた原人、旧人、新人の集団は、この時期の大規模な寒冷化と乾燥化の進行で存亡の危機に直面した。アカシカなど主要な獲物の大型動物が急減したのである。
新人集団より構成人口が1桁少ない原人や旧人の集団は、近親婚による有害変異の蓄積もあったのだろう、4万年前頃には絶滅してしまった。
この危機を「文化の力」で切り抜けたのは、私たち新人だけだった。
稀少だった石刃(ナイフ型石器)を増産し、投げ槍に使える小石刃も考案。それらの利器で、狩猟対象にならなかったウサギ、リス、野鳥などの小動物を捕え、新たな食料とした。
貝殻ビーズや籠形ビーズ、骨や歯牙の装飾品をさかんに作るようになったが、こうした品々の交換・贈答が言語の発達を促進し、より大きな集団形成に役立ったとも言われる。
現生人類の生き残りの理由については、化石人骨の空白地帯があるのでまだ不明な点が多いが、大まかな流れは前掲書で次第に見えてきた。
さて、前述のペーボ教授チームの「コロナ重症化=ネアンデルタール人遺伝子由来」説だが、南欧にいたネアンデルタール人の遺伝子が交配によって約6万年前に現生人類にもたらされたものだという。
となると、南欧を含む西アジアの新人はその後、ヨーロッパの基底集団やアメリカ先住民を形成するとされるから、現在のコロナ感染者分布の世界地図とも矛盾しない。
ただ、論文の元データを見ると、当該遺伝子を持つ人の割合が、コロンビア(11・7%)やペルー(5・9%)は確かに高いが、アフリカ系アメリカ人では1・6%と低く、これはアメリカ国内で黒人重症者の多い現状とは合わない。
重症化の要因はやはり単一ではなく、複雑かつ重層的なものなのだろう。
10月28日に、1日当たり死者が500人を越えたフランスが、2度目の全土ロックダウンを宣言した。ネアンデルタール人遺伝子説のさらなる研究成果の発表を待ちたいと思う。
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